入生田萌香(1)
文字数 1,348文字
秋の夕暮れ、黒のセンチュリーが住宅街を進んで行くと、人気の無くなった路地の曲がり角に丁度差し掛かったその時、突然にサングラスを掛けた黒服の男が飛び出してきた。
間一髪でブレーキを掛け、急停車した車の運転手 が、ウィンドウを開け、顔を出して飛び出してきた男に文句を言う。
「おい、危ないじゃないか!」
だが、それは彼らの作戦だったのだろう。その開いた窓の中に、陰に隠れていた別の男が手を突っ込む。そして、運転手 の胸倉を掴み、拳銃の銃口を彼の額に向け、そのまま発砲した。
銃には消音機が取り付けられていたのか、通常の拳銃の様な発砲音はせず、紙袋が潰れた様な、酷く鈍い音しか響いては来ない。
運転手 は、額を撃たれ死ぬ前に、後部座席に座っていた少女に、彼の最後の言葉を残している。
「お嬢様、お逃げください!」
少女はそれを聞いた為か、それとも聞く前からそうしようと思っていたのか、男と反対側の左のドアを開き、黄昏の住宅街を車の進行方向と逆方向に走って逃げていた。サングラスに黒服の男二人も、当然の様に少女の後を追う。
少女は近くの公園に逃げ込んだ。だが、それは逃げ込んだと云うよりも、追い込まれたと云う方が適切だったのかも知れない。公園の入口の向うには、新たな黒服の男の姿があったからだ。
低く差す夕暮れの日差しは、公園の木々によって、より多くの闇を創り出している。
少女はその中を必死で走り抜けていった。だが、黒服の男たちは、行く先々に姿を見せては一人二人と数を増やしていき、最初二人だったものが、もう既に六人になっている。
そうして遂に、彼女は野外音楽堂に追い込まれた。苦し紛れに駆け降りた階段は野外音楽堂の客席だった。もうステージに行くしか逃げ道は残されていない。客席は八方から追手に包囲されている。
だが、駆け上がったステージすら、少女の安息の場所ではなかった。ステージの左右の袖には、其々 新たな二人の黒服の男が潜んでいたのである。
「あなたたち、何者ですの?!」
少女は怯 えながらも大声を上げて、一番近くにいた黒服の男を威嚇する。勿論、その程度で黒服の男たちが怯 む訳もなかった。
「その様なこと、お判りでしょう。入生田 萌香 お嬢様……」
そう、少女の名は入生田萌香。入生田 重国 氏の孫娘だ。
「あ、あなたたちは、異星人なのですね!」
「フフフフフ」
黒服の一人が、萌香の言葉に肯定の含み笑いを浮かべる。
彼女を仕留める為、黒服の男たちは、拳銃を構えた状態で、徐々に、包囲の網を窄めていく。
「あなたたち、わたくしを人質にして、祖父を脅迫しようとするお心算なのですか?!」
萌香の問いに、先程含み笑いをした黒服の男が答えた。
「お嬢さんと云うのは、本当に世間知らずですね。あなたのお祖父様が、いかに孫娘が可愛いからと言って、あなたの為に、あの悪魔の様な計画を破棄することなど、絶対にしやしませんよ。それに、重国氏がそう思っても、組織と云う物は頭 の意志だけで動くものではありませんからね……」
「では、どうして、わたくしのことを?」
「決まっているじゃありませんか? 見せしめですよ。あなたをここで無残にいたぶって殺し、入生田重国にあなたの死体を見せつけて、思い知らせてやるのです」
萌香の顔が恐怖に引き攣 り歪んだ。
間一髪でブレーキを掛け、急停車した車の
「おい、危ないじゃないか!」
だが、それは彼らの作戦だったのだろう。その開いた窓の中に、陰に隠れていた別の男が手を突っ込む。そして、
銃には消音機が取り付けられていたのか、通常の拳銃の様な発砲音はせず、紙袋が潰れた様な、酷く鈍い音しか響いては来ない。
「お嬢様、お逃げください!」
少女はそれを聞いた為か、それとも聞く前からそうしようと思っていたのか、男と反対側の左のドアを開き、黄昏の住宅街を車の進行方向と逆方向に走って逃げていた。サングラスに黒服の男二人も、当然の様に少女の後を追う。
少女は近くの公園に逃げ込んだ。だが、それは逃げ込んだと云うよりも、追い込まれたと云う方が適切だったのかも知れない。公園の入口の向うには、新たな黒服の男の姿があったからだ。
低く差す夕暮れの日差しは、公園の木々によって、より多くの闇を創り出している。
少女はその中を必死で走り抜けていった。だが、黒服の男たちは、行く先々に姿を見せては一人二人と数を増やしていき、最初二人だったものが、もう既に六人になっている。
そうして遂に、彼女は野外音楽堂に追い込まれた。苦し紛れに駆け降りた階段は野外音楽堂の客席だった。もうステージに行くしか逃げ道は残されていない。客席は八方から追手に包囲されている。
だが、駆け上がったステージすら、少女の安息の場所ではなかった。ステージの左右の袖には、
「あなたたち、何者ですの?!」
少女は
「その様なこと、お判りでしょう。
そう、少女の名は入生田萌香。
あの
「あ、あなたたちは、異星人なのですね!」
「フフフフフ」
黒服の一人が、萌香の言葉に肯定の含み笑いを浮かべる。
彼女を仕留める為、黒服の男たちは、拳銃を構えた状態で、徐々に、包囲の網を窄めていく。
「あなたたち、わたくしを人質にして、祖父を脅迫しようとするお心算なのですか?!」
萌香の問いに、先程含み笑いをした黒服の男が答えた。
「お嬢さんと云うのは、本当に世間知らずですね。あなたのお祖父様が、いかに孫娘が可愛いからと言って、あなたの為に、あの悪魔の様な計画を破棄することなど、絶対にしやしませんよ。それに、重国氏がそう思っても、組織と云う物は
「では、どうして、わたくしのことを?」
「決まっているじゃありませんか? 見せしめですよ。あなたをここで無残にいたぶって殺し、入生田重国にあなたの死体を見せつけて、思い知らせてやるのです」
萌香の顔が恐怖に引き