わたくし、やります(6)
文字数 1,543文字
土日は特に出動要請も無く、萌香は問題なく6時に退社することが出来た。
萌香もほっとしているし、湯本隊員に緊急招集が掛からなかったことを良かったとも思っている。何の心配も無しとは行かなかったとは思うが、彼も級友と打ち上げまで同席出来たのは嬉しかったに違いない。
それとは別に、萌香自身も残業無しで帰宅できたのは有難いことであった。萌香も来週の本番に向けてダンスで気になる所を、今日の内に練習しておきたかったのである。
そう言う意味では、学校の体育館で練習できなかったのは残念でならない。だが、それを言っても仕方のないこと……。萌香は駅に着くと、直ぐに運転手の宮城野に電話を入れ、ダンスの練習する為に寧樹と始めて会った公園へと送って貰うことにした。無理な注文であったのだが、文句も言わず宮城野は承知をしてくれる。
「お嬢様、『帰りに公園に寄りたい』なんて、どうなされたのですか?」
駅から少し走った所で、宮城野が萌香に尋ねる。運転手にしては少々ぶしつけな質問ではあったが、萌香は別にどうとも思わない。急な頼みを聞いてくれた宮城野は、単なる使用人などでは無く、萌香の友人であり、兄の様な存在でもあった。
「来週の文化祭の練習がしたかったの。皆と練習が出来なかったでしょう? 私だけ足を引っ張る訳いきませんわ。あの公園ならステージがあるでしょう?」
「夜も遅いですから、少しだけですよ。それと、お一人にする訳には行きませんので、私は見ていますけど、ご容赦ください」
「構いませんわ。その替わり、終ったら家まで送ってくださいね」
「勿論ですとも!」
萌香は公園のトイレでジャージに着替え、ステージに立った。そして、まず通しで練習をしてみる。気になったのは、ジャンプのリズムが少し遅れることだが、それだけやっても感じは掴めないと思ったのだ。
しかし、何度通しても少しだけ着地が遅れる。気にしなければ良いと言えば、それでも良いのだが、萌香はそこが何となく気になるのだ。
客席を見ると、宮城野が座っていて黙って萌香を見ていた。
「宮城野さん、何か気になる所があったら、仰ってくださいませんか?」
「私なんかでは、分かりませんよ」
「着地がどうしても遅れるのです」
「でしたら、そちらの方に聞いてみればどうですか?」
宮城野の指さす方を萌香が見ると、そこには立っていたのは、萌香の学校の同級生片平乙女であった。
「どうして? 片平さん……」
萌香は驚いて乙女に尋ねた。それに乙女は簡単にこう答える。
「私も練習しようと思ったのよ。皆の練習を見ていたから、自分の練習が出来なくってね。ここならステージがあるでしょう?」
そうなのだ。乙女は自分の練習時間を削って皆の練習を見てくれていたのだ。それなのに、乙女が折角時間を取ってくれた合同練習を、萌香は拒否してしまった……。不可抗力とは言え、乙女は傷付いたに違いない。
「片平さん、ご免なさい。でも、本当に用事があったのです。それが無ければ……」
「分かってる。一緒に練習しよ!」
乙女はそう言うと、笑顔でステージへと駆け上がって行った。
それから小一時間、二人はダンスの練習をした。萌香にとっては自分の問題点を理解できた有意義な時間であったし、乙女にとっても教えながらではあったが、少なからず自分の練習の出来た数少ない時間であった。
だが、その時間はそれ以上長くは続かなかったである。
「全く……。そんな風に腕輪をした儘にしておくから、私にも気付かず、黙って魔法に掛けられるなんて目に遭うのよ」
萌香が、声のした方、拡がる闇へと目を凝らすと、そこには黒のタイトなレザーキャットスーツに身を包んだ仮面の女が立っていた。そして、その奥には、二名の剛霊武 獣らしき敵の姿が目に映ったのである。
萌香もほっとしているし、湯本隊員に緊急招集が掛からなかったことを良かったとも思っている。何の心配も無しとは行かなかったとは思うが、彼も級友と打ち上げまで同席出来たのは嬉しかったに違いない。
それとは別に、萌香自身も残業無しで帰宅できたのは有難いことであった。萌香も来週の本番に向けてダンスで気になる所を、今日の内に練習しておきたかったのである。
そう言う意味では、学校の体育館で練習できなかったのは残念でならない。だが、それを言っても仕方のないこと……。萌香は駅に着くと、直ぐに運転手の宮城野に電話を入れ、ダンスの練習する為に寧樹と始めて会った公園へと送って貰うことにした。無理な注文であったのだが、文句も言わず宮城野は承知をしてくれる。
「お嬢様、『帰りに公園に寄りたい』なんて、どうなされたのですか?」
駅から少し走った所で、宮城野が萌香に尋ねる。運転手にしては少々ぶしつけな質問ではあったが、萌香は別にどうとも思わない。急な頼みを聞いてくれた宮城野は、単なる使用人などでは無く、萌香の友人であり、兄の様な存在でもあった。
「来週の文化祭の練習がしたかったの。皆と練習が出来なかったでしょう? 私だけ足を引っ張る訳いきませんわ。あの公園ならステージがあるでしょう?」
「夜も遅いですから、少しだけですよ。それと、お一人にする訳には行きませんので、私は見ていますけど、ご容赦ください」
「構いませんわ。その替わり、終ったら家まで送ってくださいね」
「勿論ですとも!」
萌香は公園のトイレでジャージに着替え、ステージに立った。そして、まず通しで練習をしてみる。気になったのは、ジャンプのリズムが少し遅れることだが、それだけやっても感じは掴めないと思ったのだ。
しかし、何度通しても少しだけ着地が遅れる。気にしなければ良いと言えば、それでも良いのだが、萌香はそこが何となく気になるのだ。
客席を見ると、宮城野が座っていて黙って萌香を見ていた。
「宮城野さん、何か気になる所があったら、仰ってくださいませんか?」
「私なんかでは、分かりませんよ」
「着地がどうしても遅れるのです」
「でしたら、そちらの方に聞いてみればどうですか?」
宮城野の指さす方を萌香が見ると、そこには立っていたのは、萌香の学校の同級生片平乙女であった。
「どうして? 片平さん……」
萌香は驚いて乙女に尋ねた。それに乙女は簡単にこう答える。
「私も練習しようと思ったのよ。皆の練習を見ていたから、自分の練習が出来なくってね。ここならステージがあるでしょう?」
そうなのだ。乙女は自分の練習時間を削って皆の練習を見てくれていたのだ。それなのに、乙女が折角時間を取ってくれた合同練習を、萌香は拒否してしまった……。不可抗力とは言え、乙女は傷付いたに違いない。
「片平さん、ご免なさい。でも、本当に用事があったのです。それが無ければ……」
「分かってる。一緒に練習しよ!」
乙女はそう言うと、笑顔でステージへと駆け上がって行った。
それから小一時間、二人はダンスの練習をした。萌香にとっては自分の問題点を理解できた有意義な時間であったし、乙女にとっても教えながらではあったが、少なからず自分の練習の出来た数少ない時間であった。
だが、その時間はそれ以上長くは続かなかったである。
「全く……。そんな風に腕輪をした儘にしておくから、私にも気付かず、黙って魔法に掛けられるなんて目に遭うのよ」
萌香が、声のした方、拡がる闇へと目を凝らすと、そこには黒のタイトなレザーキャットスーツに身を包んだ仮面の女が立っていた。そして、その奥には、二名の