召喚されしもの(9)
文字数 1,921文字
大悪魔女帝は動きを止めた。止めざる得なかった。
「ミスリルウォーリヤーは、アルウェンの兄弟子、大地と魔道具の魔法使いが創りだした傑作よ。ゴーレムでありながら、アルウェンの意志でミスリル製の鎧にもなるの……」
目の前に蹲っていたウィングウォーリヤーは、寧樹の意志で分解し、彼女の身体に鎧として装着されていた。
それは、ミスリル銀で創られ、金で装飾された美しいフルプレートメイルだった。そして今、袖の様な肩当ての装飾が、左右からスライドして合わさり兜へと変わっていく。
「アルウェンは、か弱いエルフの魔導士ではなかったのよ。ミメの剣法を使い、戦士としても一流の魔法剣士だったの……。彼女は、危険な冒険に幾度も旅立ち、卑怯な行いをすることも無しに生き延びた……。彼女はそう言うことからも、十分に強い剣士だったと云うことが分かるわ……。でも、それだけじゃない。勿論、彼女自身の強さ、運の良さもあるけれども、彼女の周りの人間のフォローも小さくはなかったのよ。その1つが、この甲冑ミスリルウォーリヤーなの」
寧樹の右手には、既にミメの小太刀が握られている。これには大悪魔女帝も決定的な不利を認めざる得なかった。
相手は甲冑を身に纏い、武器を装備した状態。それに対し、大悪魔女帝は愛刀『布津御魂剣 』を出すことも出来ず、指サーベルも使えない丸腰。大悪魔女帝は素手で有希を倒すしかないのだ。
「流石に、こうするしかないか……」
大悪魔女帝は、『瞬間移動』の呪文を唱えて姿を消す。
「寧樹、大悪魔女帝は逃げましたわ……」
萌香がそう云い切る前に、後頭部に大悪魔女帝の延髄切りが襲いかかる。寧樹もインパクトの寸前に前転し、衝撃を軽減した。
「流石、耀子叔母さん……。簡単には終らせてくれないわね……。でも、叔母さんが決めたルールよ。私たちの勝ちね!」
今度は寧樹が短距離の『瞬間移動』を掛け、現れざまに大悪魔女帝の背面に切りつける。これを大悪魔女帝は前方宙返り反捻りで跳んで避けた。萌香がよく見ると、女帝の頭には左右に新たな顔があり、それに合わせる様に腕が新たに4本生えている。
「何ですの? あの気持ち悪いのは……」
「あれはね、『阿修羅』って呪文の効果よ。周りを囲まれた時、防御を効率化する為に編み出された補助呪文なの……」
そして大悪魔女帝は、新たに生えた腕で寧樹に殴り掛かる。寧樹はそれをミメの小太刀で防いで斬り落とした。
「萌香、来るわよ!!」
寧樹がそう萌香に警告した直後、大悪魔女帝の向けた両手から、何かの波動が襲って来る。だが、それは『攻撃魔法避け』を自らに掛けている有希には作用しない。ただ、彼女の周囲一面から、七色の光が迸り、一瞬にして氷結の世界へと変えていた。
「『極光乱舞』ですわね。でも、サント・ネイジュには通用しませんわ!!」
しかし、大悪魔女帝の目的は、サント・ネイジュを凍らせることではなかった。彼女は素早く氷の床を滑ってスライディングを掛けると、それを避けて後方に跳んだ寧樹の足元から自分の腕を拾い上げた。
彼女の狙ったこと……。それは、寧樹を倒す武器を得る事であった。彼女はそれを、自分の斬り落とされた腕を凍らせることで得た。そして、それを使ってイチかバチかの打撃攻撃に出る。
確かに武器は有希の方が上、おまけに彼女は甲冑を身に付けている。だが、中身は未熟な小娘。頭部をハンマーの様な凍った腕で思いっきり叩けば気絶するかも知れない。
しかし、寧樹の頭上に打ち下ろされた大悪魔女帝渾身の一撃は、ミメの受け太刀に依って寧樹の右足元に逸らされていた。
ミメの受け太刀では、上からの攻撃に対し、頭上数10センチの位置を目安に、剣先ひと拳の位置を置き、柄の方を略 顔の高さになる様に両手持ちして相手の撃ち込みを下に受け流す。この時、頂点の位置は固定となるが、柄の位置は相手の撃ち込みの角度で周を描く様に変化する。この為、剣全体の位置の描く形が円錐形に見えるので、この受けを『松かさ』と称されていた。
寧樹は相手の攻撃を受け流すと、腰を落とし、切っ先だけを相手の胸元まで下げ、撃ち込みを透かされた大悪魔女帝の左胸を、一気にミメの小太刀で貫いた。だが、それでは心臓の位置には高過ぎる。左の肺か精々大動脈を切断したに過ぎない。
有希は一旦小太刀を引き抜き、正眼に構えた状態から改めて、刃を下に向けた形で大悪魔女帝の腹部を突きで貫いた。今度は間違いなく、大悪魔女帝の心臓を捉えたに違いない。
寧樹が一歩下がると、流石の大悪魔女帝も、姿勢を維持できず、有希の足元へと力無く崩れ落ち、ガクッと膝をついた。
「寧樹、私たち、勝ちましたのですね!!」
「ええ、完全勝利よ!!」
「ミスリルウォーリヤーは、アルウェンの兄弟子、大地と魔道具の魔法使いが創りだした傑作よ。ゴーレムでありながら、アルウェンの意志でミスリル製の鎧にもなるの……」
目の前に蹲っていたウィングウォーリヤーは、寧樹の意志で分解し、彼女の身体に鎧として装着されていた。
それは、ミスリル銀で創られ、金で装飾された美しいフルプレートメイルだった。そして今、袖の様な肩当ての装飾が、左右からスライドして合わさり兜へと変わっていく。
「アルウェンは、か弱いエルフの魔導士ではなかったのよ。ミメの剣法を使い、戦士としても一流の魔法剣士だったの……。彼女は、危険な冒険に幾度も旅立ち、卑怯な行いをすることも無しに生き延びた……。彼女はそう言うことからも、十分に強い剣士だったと云うことが分かるわ……。でも、それだけじゃない。勿論、彼女自身の強さ、運の良さもあるけれども、彼女の周りの人間のフォローも小さくはなかったのよ。その1つが、この甲冑ミスリルウォーリヤーなの」
寧樹の右手には、既にミメの小太刀が握られている。これには大悪魔女帝も決定的な不利を認めざる得なかった。
相手は甲冑を身に纏い、武器を装備した状態。それに対し、大悪魔女帝は愛刀『
「流石に、こうするしかないか……」
大悪魔女帝は、『瞬間移動』の呪文を唱えて姿を消す。
「寧樹、大悪魔女帝は逃げましたわ……」
萌香がそう云い切る前に、後頭部に大悪魔女帝の延髄切りが襲いかかる。寧樹もインパクトの寸前に前転し、衝撃を軽減した。
「流石、耀子叔母さん……。簡単には終らせてくれないわね……。でも、叔母さんが決めたルールよ。私たちの勝ちね!」
今度は寧樹が短距離の『瞬間移動』を掛け、現れざまに大悪魔女帝の背面に切りつける。これを大悪魔女帝は前方宙返り反捻りで跳んで避けた。萌香がよく見ると、女帝の頭には左右に新たな顔があり、それに合わせる様に腕が新たに4本生えている。
「何ですの? あの気持ち悪いのは……」
「あれはね、『阿修羅』って呪文の効果よ。周りを囲まれた時、防御を効率化する為に編み出された補助呪文なの……」
そして大悪魔女帝は、新たに生えた腕で寧樹に殴り掛かる。寧樹はそれをミメの小太刀で防いで斬り落とした。
「萌香、来るわよ!!」
寧樹がそう萌香に警告した直後、大悪魔女帝の向けた両手から、何かの波動が襲って来る。だが、それは『攻撃魔法避け』を自らに掛けている有希には作用しない。ただ、彼女の周囲一面から、七色の光が迸り、一瞬にして氷結の世界へと変えていた。
「『極光乱舞』ですわね。でも、サント・ネイジュには通用しませんわ!!」
しかし、大悪魔女帝の目的は、サント・ネイジュを凍らせることではなかった。彼女は素早く氷の床を滑ってスライディングを掛けると、それを避けて後方に跳んだ寧樹の足元から自分の腕を拾い上げた。
彼女の狙ったこと……。それは、寧樹を倒す武器を得る事であった。彼女はそれを、自分の斬り落とされた腕を凍らせることで得た。そして、それを使ってイチかバチかの打撃攻撃に出る。
確かに武器は有希の方が上、おまけに彼女は甲冑を身に付けている。だが、中身は未熟な小娘。頭部をハンマーの様な凍った腕で思いっきり叩けば気絶するかも知れない。
しかし、寧樹の頭上に打ち下ろされた大悪魔女帝渾身の一撃は、ミメの受け太刀に依って寧樹の右足元に逸らされていた。
ミメの受け太刀では、上からの攻撃に対し、頭上数10センチの位置を目安に、剣先ひと拳の位置を置き、柄の方を
寧樹は相手の攻撃を受け流すと、腰を落とし、切っ先だけを相手の胸元まで下げ、撃ち込みを透かされた大悪魔女帝の左胸を、一気にミメの小太刀で貫いた。だが、それでは心臓の位置には高過ぎる。左の肺か精々大動脈を切断したに過ぎない。
有希は一旦小太刀を引き抜き、正眼に構えた状態から改めて、刃を下に向けた形で大悪魔女帝の腹部を突きで貫いた。今度は間違いなく、大悪魔女帝の心臓を捉えたに違いない。
寧樹が一歩下がると、流石の大悪魔女帝も、姿勢を維持できず、有希の足元へと力無く崩れ落ち、ガクッと膝をついた。
「寧樹、私たち、勝ちましたのですね!!」
「ええ、完全勝利よ!!」