剛霊武獣(4)
文字数 1,488文字
萌香は恐ろしさと云うより、悍 ましさに身震いがどうしても止められなかった。
「何者かが、あの戦争で逃れた大悪魔と結託し、組み合わせた死体に大悪魔に憑依させ、剛霊武 獣として暴れさせているのです」
その時、心の中で寧樹が萌香に声を掛けた。今は腕輪が現れているので、断りをいれなくとも、会話が許されている筈だが……。
「萌香、その剛霊武 獣について訊きたいの」
「いいですわ、寧樹が話してください!」
許可を貰った寧樹が、萌香の声を使って小田原隊長に質問をする。
「隊長、どうして拒絶反応が起こらないのですか? 大悪魔が憑依して生き返ったとしても、異生物同士の結合は、拒絶反応が起こって癒着しない筈ですが……」
「くっつきませんよ。でも、彼らには癒着する必要など無いのです。結合している間だけ戦えれば良いのです。肉体が維持できなくなったら、憑依を解いて元の肉体に戻れば良いだけなのですから」
寧樹が続けて質問する。
「隊長は『何者か』と仰られましたが、それが誰か、分かっていらっしゃるのですか?」
「いや、それも未だ異星人討伐隊は掴んでいないのです。ですが、大悪魔単独による仕業とは考え難いのです。奴らは、恐らくそう云う面倒なことは好まないのではないでしょうか? 彼らなら、元の肉体のまま襲おうとする筈です。彼ら大悪魔の望みは、人間の生気を奪うことだけなのですから……。
人間や、怪物に化けて、人類を恐怖と混乱に落とすと云うのは、寧ろ、この時空の者が考えたことではないかと私は思っています」
「この時空の者? 異星人テロリストと云うことですの?」
萌香が寧樹を押し退けて質問した。
「そうとまでは言い切れません。ただ、あのようなモノを造り上げる以上、相当の科学力と、それ以上に相当の資本力を持っている集団であることは間違いないと思います」
萌香は何も答えようが無い。それはそうだ。小田原隊長は、結局何も確定的なことは言っていないのだから。
替わりに寧樹が会話を引き継ぐ。
「ありがとうございます。剛霊武 獣については大体分かりました」
「では、お約束は果たしましたね」
「あと少し質問させてください」
「どうぞ」
「どうして、あの時、鈴木挑さんが剛霊武 獣だと云うことを、あなたは即座に分かったのですか?」
小田原隊長は寧樹の質問を聞いて、少し苦笑いを浮かべた。
「それは、ちょっと教えられませんね。機密事項ですから……」
「では、別の質問……。鈴木挑さんに憑依していた大悪魔を、倒すことが出来たとお考えでしょうか?」
「因みに……、あれは鈴木挑の死体ではありませんよ。別人だと思います」
「そうですか……」
「大悪魔は、恐らく逃げたのではないでしょうか……。大悪魔が憑依を解除する前に、頭部を粉砕しようと思ったのですけどね……」
「そうですか……、随分と、憑依解除に熟練した大悪魔なのですね……。そんな一瞬で逃げ出すなんてね……」
その呟きを聞いて、小田原隊長は再び眉を顰める。
寧樹は心の中で「もう、いいわ」と萌香に伝え、隊長との話をお終いにした。萌香も特にもう話すことはない。勤務についての基本的なことについても、事務室でのレクチャーで大体理解できている。
「では、もう、よろしくてよ」
「では、一般人の利用する東京湾未来線に乗るまで、ご一緒しましょうか?」
「ええ、お願いしますわ。わたくし、流石に初日と云うこともあり疲れましたから……」
そう言って、萌香は立ち上がった小田原隊長に手を差し伸ばした。小田原隊長はその手を取って萌香を立ち上がらせる。
こうして、入生田萌香の異星人討伐隊初日の勤務は、何事もなく終了したのである。
「何者かが、あの戦争で逃れた大悪魔と結託し、組み合わせた死体に大悪魔に憑依させ、
その時、心の中で寧樹が萌香に声を掛けた。今は腕輪が現れているので、断りをいれなくとも、会話が許されている筈だが……。
「萌香、その
「いいですわ、寧樹が話してください!」
許可を貰った寧樹が、萌香の声を使って小田原隊長に質問をする。
「隊長、どうして拒絶反応が起こらないのですか? 大悪魔が憑依して生き返ったとしても、異生物同士の結合は、拒絶反応が起こって癒着しない筈ですが……」
「くっつきませんよ。でも、彼らには癒着する必要など無いのです。結合している間だけ戦えれば良いのです。肉体が維持できなくなったら、憑依を解いて元の肉体に戻れば良いだけなのですから」
寧樹が続けて質問する。
「隊長は『何者か』と仰られましたが、それが誰か、分かっていらっしゃるのですか?」
「いや、それも未だ異星人討伐隊は掴んでいないのです。ですが、大悪魔単独による仕業とは考え難いのです。奴らは、恐らくそう云う面倒なことは好まないのではないでしょうか? 彼らなら、元の肉体のまま襲おうとする筈です。彼ら大悪魔の望みは、人間の生気を奪うことだけなのですから……。
人間や、怪物に化けて、人類を恐怖と混乱に落とすと云うのは、寧ろ、この時空の者が考えたことではないかと私は思っています」
「この時空の者? 異星人テロリストと云うことですの?」
萌香が寧樹を押し退けて質問した。
「そうとまでは言い切れません。ただ、あのようなモノを造り上げる以上、相当の科学力と、それ以上に相当の資本力を持っている集団であることは間違いないと思います」
萌香は何も答えようが無い。それはそうだ。小田原隊長は、結局何も確定的なことは言っていないのだから。
替わりに寧樹が会話を引き継ぐ。
「ありがとうございます。
「では、お約束は果たしましたね」
「あと少し質問させてください」
「どうぞ」
「どうして、あの時、鈴木挑さんが
小田原隊長は寧樹の質問を聞いて、少し苦笑いを浮かべた。
「それは、ちょっと教えられませんね。機密事項ですから……」
「では、別の質問……。鈴木挑さんに憑依していた大悪魔を、倒すことが出来たとお考えでしょうか?」
「因みに……、あれは鈴木挑の死体ではありませんよ。別人だと思います」
「そうですか……」
「大悪魔は、恐らく逃げたのではないでしょうか……。大悪魔が憑依を解除する前に、頭部を粉砕しようと思ったのですけどね……」
「そうですか……、随分と、憑依解除に熟練した大悪魔なのですね……。そんな一瞬で逃げ出すなんてね……」
その呟きを聞いて、小田原隊長は再び眉を顰める。
寧樹は心の中で「もう、いいわ」と萌香に伝え、隊長との話をお終いにした。萌香も特にもう話すことはない。勤務についての基本的なことについても、事務室でのレクチャーで大体理解できている。
「では、もう、よろしくてよ」
「では、一般人の利用する東京湾未来線に乗るまで、ご一緒しましょうか?」
「ええ、お願いしますわ。わたくし、流石に初日と云うこともあり疲れましたから……」
そう言って、萌香は立ち上がった小田原隊長に手を差し伸ばした。小田原隊長はその手を取って萌香を立ち上がらせる。
こうして、入生田萌香の異星人討伐隊初日の勤務は、何事もなく終了したのである。