仮面舞踏会の終わり(8)
文字数 1,548文字
その男の話は土着人類と異星人、大悪魔の抗争にとは全く縁の無いものだった。今、それをここで皆が聴く必然性は無い。だが、それを語りだした彼のことを、その場の誰も止めることは出来なかった。
「私は父の重国と異なり、小心で真面目さだけが取り柄の男だ。それでも重国の息子として、恥ずかしくない様、日々努力を積み重ねてきた心算だ。
だが、良くも悪くも常識を外れることの出来ない私は、重国から見たら、駄目な役立たず。惣領の甚六でしかなかったのだ。
私にとって、重国の存在はプレッシャー以外の何物でもなかった。父は全てに正しく、私は全てに誤っていた。
彼女に逢ったのは、そんな私が大学で政治学を学んでいた時の頃だった。始めて逢った時、彼女は、真面目なだけの私の、その生真面目さを長所だと言ってくれたのだ。
私は彼女を愛した。彼女も私を愛してくれたと思う。だが、私には愛する人を選ぶ権利すら無かった……。私たちは父重国によって無理矢理に別れさせられたのだ」
それには萌香が反論する。
「それはパパの言い訳に過ぎないわ! お爺様だって、子供の結婚相手を選ぶ権利なんて無い筈よ! 本当に愛する人がいたと言うのであれば……」
「ああ、そうだな。萌香の言う通りだ。私は駆け落ちでも何でもして2人で生きて行くことも出来た。しかし、私には入生田の一族であると云う特権を、結局、最後まで捨てきれはしなかったのだ。
そうして私は、大学卒業後、父の勧める大秦野家の令嬢、つまり萌香の母親と結婚し、そして萌香が生まれた。だが、私にとって妻も萌香も家族では無かった。私の頭の中には常に羽根子の母の面影が宿っていたのだ。
2年前、羽根子の母から突然連絡が入った。旧知の誼で娘の羽根子の就職を手助けして欲しいと……。羽根子は母子家庭。未婚のシングルマザーである彼女が、女手ひとつで羽根子を育てていたのだ。
私は羽根子に逢って直ぐに分かったよ。この娘は私の実の娘だとな。そして、あいつに内緒で羽根子と私が親子であるかのDNA鑑定も行った。当然、間違いはなかった。
私はあいつに認知の話を持ち出した。だが、あいつはそれを認めなかった。この娘は板橋家のもので、断じて入生田のものではないと言い張ってな。
だが、羽根子は違った……。羽根子は入生田の娘になることを望んでいたのだ」
板橋隊員は、自分は如何にも悪女であるかと言わんばかりに鼻を鳴らした。だが、彼女の日頃の行動を知る者は、それが単なる彼女の強がりに過ぎないことを分かっていた。
「だが、それは簡単ではない……。
重国は自分の後継者として、この萌香を考えている。こいつは大胆で、かつ決断力がある。また、庶民を見下す傲慢な処なども、父の重国と瓜ふたつだからだ。
もし、ここで、羽根子を私の娘と認めることになると、庶子であるにしても、羽根子は萌香より上の長女と言うことになってしまう。だが、それを重国が認める筈はない!!
私は入生田の家で、妻や萌香を見ると無性に口惜しくなる。この席には、本来ならば、あいつと羽根子が座っている筈なのだ。正直、嫉妬と言うか、憎しみの様な感情が妻だけでなく、実の娘の萌香にも湧き上がってくる。そうだ! 私は萌香が憎かったのだ。
萌香は父のお気に入りだ。そして、こいつも私なんかより祖父を尊敬している。それが証拠に、こいつは自己紹介をする時、必ず『重国の孫娘』と言う。間違っても『重雄の娘』と名乗ることはない」
それについて、萌香は何も返す言葉が無い。事実、萌香は父を軽く見ていた。祖父の威を借る、小心者の小物政治家だとして。
「私は、大悪魔女帝が萌香を拉致した時、心の片隅で、『萌香さえ死んでくれれば、一族の血を絶やさない為、羽根子を認知し易くなる……』とすら思ったのだ」
「私は父の重国と異なり、小心で真面目さだけが取り柄の男だ。それでも重国の息子として、恥ずかしくない様、日々努力を積み重ねてきた心算だ。
だが、良くも悪くも常識を外れることの出来ない私は、重国から見たら、駄目な役立たず。惣領の甚六でしかなかったのだ。
私にとって、重国の存在はプレッシャー以外の何物でもなかった。父は全てに正しく、私は全てに誤っていた。
彼女に逢ったのは、そんな私が大学で政治学を学んでいた時の頃だった。始めて逢った時、彼女は、真面目なだけの私の、その生真面目さを長所だと言ってくれたのだ。
私は彼女を愛した。彼女も私を愛してくれたと思う。だが、私には愛する人を選ぶ権利すら無かった……。私たちは父重国によって無理矢理に別れさせられたのだ」
それには萌香が反論する。
「それはパパの言い訳に過ぎないわ! お爺様だって、子供の結婚相手を選ぶ権利なんて無い筈よ! 本当に愛する人がいたと言うのであれば……」
「ああ、そうだな。萌香の言う通りだ。私は駆け落ちでも何でもして2人で生きて行くことも出来た。しかし、私には入生田の一族であると云う特権を、結局、最後まで捨てきれはしなかったのだ。
そうして私は、大学卒業後、父の勧める大秦野家の令嬢、つまり萌香の母親と結婚し、そして萌香が生まれた。だが、私にとって妻も萌香も家族では無かった。私の頭の中には常に羽根子の母の面影が宿っていたのだ。
2年前、羽根子の母から突然連絡が入った。旧知の誼で娘の羽根子の就職を手助けして欲しいと……。羽根子は母子家庭。未婚のシングルマザーである彼女が、女手ひとつで羽根子を育てていたのだ。
私は羽根子に逢って直ぐに分かったよ。この娘は私の実の娘だとな。そして、あいつに内緒で羽根子と私が親子であるかのDNA鑑定も行った。当然、間違いはなかった。
私はあいつに認知の話を持ち出した。だが、あいつはそれを認めなかった。この娘は板橋家のもので、断じて入生田のものではないと言い張ってな。
だが、羽根子は違った……。羽根子は入生田の娘になることを望んでいたのだ」
板橋隊員は、自分は如何にも悪女であるかと言わんばかりに鼻を鳴らした。だが、彼女の日頃の行動を知る者は、それが単なる彼女の強がりに過ぎないことを分かっていた。
「だが、それは簡単ではない……。
重国は自分の後継者として、この萌香を考えている。こいつは大胆で、かつ決断力がある。また、庶民を見下す傲慢な処なども、父の重国と瓜ふたつだからだ。
もし、ここで、羽根子を私の娘と認めることになると、庶子であるにしても、羽根子は萌香より上の長女と言うことになってしまう。だが、それを重国が認める筈はない!!
私は入生田の家で、妻や萌香を見ると無性に口惜しくなる。この席には、本来ならば、あいつと羽根子が座っている筈なのだ。正直、嫉妬と言うか、憎しみの様な感情が妻だけでなく、実の娘の萌香にも湧き上がってくる。そうだ! 私は萌香が憎かったのだ。
萌香は父のお気に入りだ。そして、こいつも私なんかより祖父を尊敬している。それが証拠に、こいつは自己紹介をする時、必ず『重国の孫娘』と言う。間違っても『重雄の娘』と名乗ることはない」
それについて、萌香は何も返す言葉が無い。事実、萌香は父を軽く見ていた。祖父の威を借る、小心者の小物政治家だとして。
「私は、大悪魔女帝が萌香を拉致した時、心の片隅で、『萌香さえ死んでくれれば、一族の血を絶やさない為、羽根子を認知し易くなる……』とすら思ったのだ」