萌香のいない日に(7)
文字数 1,476文字
入生田家のお抱え運転手の宮城野は、入生田家にある彼らの事務所に、朝からずっと待機し続けていた。
萌香は体調が優れない為、日曜日にも関わらず東京湾基地には出隊しないとの連絡があったのだ。ならば宮城野も今日は仕事を休んでも構わなかったのだが、萌香から急な呼び出しでもあるのではないかと考え、一応、いつも通り出勤していたのである。
「流石に今日は休みかな……」
宮城野はそう言うと、何気なく、自分のスマホを眺めてみた。そこには着信メールの未読を示すアイコンが表示されている。開いてみると、それは萌香からの伝言であった。
「宮城野さん、体調不良は嘘です。ご心配をお掛けて済みません。月曜日は学校に出ますので、宜しくお願いしますわ」
宮城野は「良かった」と思いつつも、「萌香お嬢様らしいな」とも考えた。仮病で仕事を休みつつも、彼には気を遣って態々こんなメールを萌香は送ってくる。
彼は安心し、同僚のお抱え運転手に一言声を掛けて、今日は自宅へと帰ることにした。勿論、会社の方にも、その旨の連絡を入れようとは思っている。
宮城野は、自分の軽自動車に乗り込み、入生田家を後にした。
彼が入生田家の前の道から、国道へと出ようとした時、黒い車が彼の軽と擦れ違った。どうやら、萌香の父親の重雄が帰ってきた様である。
しかし、今帰ってきたと云うことは、彼は徹夜で仕事をしていたと云うことになる。だが、政治秘書の彼が、どうして重国の指示もなしに徹夜仕事などしなくてはならなかったのだろうか? もしかすると仕事ではなく、どこかで若い女性と、密会でもしていたとでも云うのであろうか?
これ迄、宮城野は、入生田重国と、護るべき対象としての入生田萌香にしか興味が持てなかった。だが、今、彼は俄然、入生田重雄と云う男に興味が湧いてきたのである。
「しかし、重雄は帰宅する直前。今から彼が何かを始めるとは思えない。彼の調査は、次に彼が出掛けた時にすることにしよう」
宮城野はそう考え、今は何もせずに入生田家界隈を後にした。
実際、入生田重雄は昨晩、仕事場を抜け出して、若い女性と密会を行っている。それも、密会の場所は、東京湾基地の近くにある高級ホテルの1室であった。
重雄と若い女性はベッドに腰掛けて、親しそうに話していた。彼らの脇に置かれたテーブルには、ブルゴーニュの高級赤ワイン1瓶と、そのワインが注がれているグラス2個が置かれている。
重雄は、相手の女性から特別な情報を得ようとしていた……。
「パパ、ご免なさい。まだ小田原平蔵の正体を掴めてはいないの……」
「そうか……。だが、決して無理をするんじゃないぞ。お前に何かあったら、私は、どうしていいか分からなくなってしまう……。分かっているね……、羽根子……」
「心配要らないわ、パパ。パパの為に、小田原平蔵の正体を必ず掴んで見せる!」
女の方はそう言うと、グラスのワインを一息に飲み干した。
重雄はグラスをテーブルに置くと、上着の内ポケットに右手を差し入れ、財布をを取り出した。そして、その財布の中から一万円札を十枚取り出し、テーブルの上に置く。
「羽根子、取り敢えずのお小遣いだ」
それを見て、女の方は首を横に振った。彼女のポニーテールも左右に大きく振れる。
「パパ、そんなこと、しなくていいよ。私は、パパに愛されていると云うことが分かって、パパとこうして逢えるようになって、今はとっても幸せなの……」
「いつか……、いつか、一緒に暮らそうな」
重雄は興奮し、そう強く女に訴えていた。女の方も、その言葉をうっとりと、夢見る様に聞いていたのである。
萌香は体調が優れない為、日曜日にも関わらず東京湾基地には出隊しないとの連絡があったのだ。ならば宮城野も今日は仕事を休んでも構わなかったのだが、萌香から急な呼び出しでもあるのではないかと考え、一応、いつも通り出勤していたのである。
「流石に今日は休みかな……」
宮城野はそう言うと、何気なく、自分のスマホを眺めてみた。そこには着信メールの未読を示すアイコンが表示されている。開いてみると、それは萌香からの伝言であった。
「宮城野さん、体調不良は嘘です。ご心配をお掛けて済みません。月曜日は学校に出ますので、宜しくお願いしますわ」
宮城野は「良かった」と思いつつも、「萌香お嬢様らしいな」とも考えた。仮病で仕事を休みつつも、彼には気を遣って態々こんなメールを萌香は送ってくる。
彼は安心し、同僚のお抱え運転手に一言声を掛けて、今日は自宅へと帰ることにした。勿論、会社の方にも、その旨の連絡を入れようとは思っている。
宮城野は、自分の軽自動車に乗り込み、入生田家を後にした。
彼が入生田家の前の道から、国道へと出ようとした時、黒い車が彼の軽と擦れ違った。どうやら、萌香の父親の重雄が帰ってきた様である。
しかし、今帰ってきたと云うことは、彼は徹夜で仕事をしていたと云うことになる。だが、政治秘書の彼が、どうして重国の指示もなしに徹夜仕事などしなくてはならなかったのだろうか? もしかすると仕事ではなく、どこかで若い女性と、密会でもしていたとでも云うのであろうか?
これ迄、宮城野は、入生田重国と、護るべき対象としての入生田萌香にしか興味が持てなかった。だが、今、彼は俄然、入生田重雄と云う男に興味が湧いてきたのである。
「しかし、重雄は帰宅する直前。今から彼が何かを始めるとは思えない。彼の調査は、次に彼が出掛けた時にすることにしよう」
宮城野はそう考え、今は何もせずに入生田家界隈を後にした。
実際、入生田重雄は昨晩、仕事場を抜け出して、若い女性と密会を行っている。それも、密会の場所は、東京湾基地の近くにある高級ホテルの1室であった。
重雄と若い女性はベッドに腰掛けて、親しそうに話していた。彼らの脇に置かれたテーブルには、ブルゴーニュの高級赤ワイン1瓶と、そのワインが注がれているグラス2個が置かれている。
重雄は、相手の女性から特別な情報を得ようとしていた……。
「パパ、ご免なさい。まだ小田原平蔵の正体を掴めてはいないの……」
「そうか……。だが、決して無理をするんじゃないぞ。お前に何かあったら、私は、どうしていいか分からなくなってしまう……。分かっているね……、羽根子……」
「心配要らないわ、パパ。パパの為に、小田原平蔵の正体を必ず掴んで見せる!」
女の方はそう言うと、グラスのワインを一息に飲み干した。
重雄はグラスをテーブルに置くと、上着の内ポケットに右手を差し入れ、財布をを取り出した。そして、その財布の中から一万円札を十枚取り出し、テーブルの上に置く。
「羽根子、取り敢えずのお小遣いだ」
それを見て、女の方は首を横に振った。彼女のポニーテールも左右に大きく振れる。
「パパ、そんなこと、しなくていいよ。私は、パパに愛されていると云うことが分かって、パパとこうして逢えるようになって、今はとっても幸せなの……」
「いつか……、いつか、一緒に暮らそうな」
重雄は興奮し、そう強く女に訴えていた。女の方も、その言葉をうっとりと、夢見る様に聞いていたのである。