魅了する甘い香り(1)
文字数 1,382文字
その日の授業を終え、萌香が帰ろうとした時、取り巻きであった塔野佐和子が、萌香に近寄り声を掛けてきた……。
「い、入生田さん、少し宜しいかしら?」
「わたくし、用事がありますの。手短かにお願いしますわ」
萌香は最近、塔野や宮ノ下などの取り巻きを意図的に避けるようにしている。そんなこともあり、萌香は何も考えず、反射的にそう答えていた。
「今日の放課後なのですけど……、入生田さんを紹介して頂きたいと仰る方がいらっしゃって……。その方を含めた3人と、宮ノ下さんと私の3人で『一緒にお食事でも』とお誘いを頂きましたの。それで……、お忙しいのは重々承知してますのよ。でも、是非、入生田さんとご一緒したいと仰るので……」
要するに、これから3対3の合コンするから、萌香にも出ないかと云う誘いらしい。だが、萌香がそんなもの、喜んで来るとでも思っているのだろうか?
第一、そんなことを突然決められても、萌香は今夜もサント・ネイジュの特訓をしなければならないのだ。
「塔野さん、わたくし……」
萌香は迷わず断りの返事を返そうとした。だが、それを留めたのは、意外にも心の中の寧樹の声であった。
「少し待って……」
「腕輪をしている間、寧樹は口を挟まないお約束じゃなかったかしら?」
「お願い、少しだけ……」
「分かったわ……。で、何ですの?」
「この合コン、参加して欲しいの」
「どうしてですの?」
「この合コンは裏がある。恐らく、萌香を誘い出す為の罠よ。でもね、そう云うリスクの火種ってのは、小火 のうちに消しておくべきものなのよ」
「寧樹は、塔野さんが私を罠に嵌めようとしてるって仰るの?!」
「ええ、そうよ。今、萌香には彼女の心を読ませない様にしているけど、腕輪をしていても、私には彼女の考えていることが、少しなら分かるの……」
「でも……、それが本当なら、仮にも友だちでしょう? それを罠に嵌めようなんて、酷過ぎですわ」
「萌香だって、塔野さんを友だちだとは思っていないかったでしょう?」
「それは、そうですけど……」
「実は彼女もそう。萌香も知っているわよね。塔野さんは、生意気なお嬢様の萌香が大嫌いだった。にも関わらず、萌香の取り巻きとしておべっかをずっと使っていた……。その理由はね、塔野さんのお父様が重役をしている会社は、萌香のお爺様の入生田重国氏や、お父様で政策秘書の入生田重雄氏と深い関係にあってね、塔野さんはお父様から『入生田萌香の機嫌を損ねない様に……』ときつく言われていたからなの……」
「それで、わたくしと親しくしていたって訳ですのね!」
萌香にしてみれば、塔野佐和子や宮ノ下美里は、おべっか使いの、取るに足りない者たちだ。その連中が、萌香をお世辞でいい気にさせて操ろうとしていたと云うのが、飼い犬に手を噛まれた様で、酷く腹立たしい。
だが、寧樹はと言うと、そんな萌香に対し冷ややかに応対する。
「ええ。で、最近、萌香が彼女らと距離を置く様になったでしょう? 彼女も心の中では、ほっとしていたのよ。ところが、彼女のお父様が何者かに人質に取られたらしくて、『人質を解放して欲しければ、入生田萌香を誘いだせ』って言われたみたいなの……」
「それで、わたくしを敵に売ったってことですのね!!」
「萌香だって、学校生活を諦めて家族の為に闘おうって決心したじゃない? 家族の危機なのよ。分かってあげたら?」
「い、入生田さん、少し宜しいかしら?」
「わたくし、用事がありますの。手短かにお願いしますわ」
萌香は最近、塔野や宮ノ下などの取り巻きを意図的に避けるようにしている。そんなこともあり、萌香は何も考えず、反射的にそう答えていた。
「今日の放課後なのですけど……、入生田さんを紹介して頂きたいと仰る方がいらっしゃって……。その方を含めた3人と、宮ノ下さんと私の3人で『一緒にお食事でも』とお誘いを頂きましたの。それで……、お忙しいのは重々承知してますのよ。でも、是非、入生田さんとご一緒したいと仰るので……」
要するに、これから3対3の合コンするから、萌香にも出ないかと云う誘いらしい。だが、萌香がそんなもの、喜んで来るとでも思っているのだろうか?
第一、そんなことを突然決められても、萌香は今夜もサント・ネイジュの特訓をしなければならないのだ。
「塔野さん、わたくし……」
萌香は迷わず断りの返事を返そうとした。だが、それを留めたのは、意外にも心の中の寧樹の声であった。
「少し待って……」
「腕輪をしている間、寧樹は口を挟まないお約束じゃなかったかしら?」
「お願い、少しだけ……」
「分かったわ……。で、何ですの?」
「この合コン、参加して欲しいの」
「どうしてですの?」
「この合コンは裏がある。恐らく、萌香を誘い出す為の罠よ。でもね、そう云うリスクの火種ってのは、
「寧樹は、塔野さんが私を罠に嵌めようとしてるって仰るの?!」
「ええ、そうよ。今、萌香には彼女の心を読ませない様にしているけど、腕輪をしていても、私には彼女の考えていることが、少しなら分かるの……」
「でも……、それが本当なら、仮にも友だちでしょう? それを罠に嵌めようなんて、酷過ぎですわ」
「萌香だって、塔野さんを友だちだとは思っていないかったでしょう?」
「それは、そうですけど……」
「実は彼女もそう。萌香も知っているわよね。塔野さんは、生意気なお嬢様の萌香が大嫌いだった。にも関わらず、萌香の取り巻きとしておべっかをずっと使っていた……。その理由はね、塔野さんのお父様が重役をしている会社は、萌香のお爺様の入生田重国氏や、お父様で政策秘書の入生田重雄氏と深い関係にあってね、塔野さんはお父様から『入生田萌香の機嫌を損ねない様に……』ときつく言われていたからなの……」
「それで、わたくしと親しくしていたって訳ですのね!」
萌香にしてみれば、塔野佐和子や宮ノ下美里は、おべっか使いの、取るに足りない者たちだ。その連中が、萌香をお世辞でいい気にさせて操ろうとしていたと云うのが、飼い犬に手を噛まれた様で、酷く腹立たしい。
だが、寧樹はと言うと、そんな萌香に対し冷ややかに応対する。
「ええ。で、最近、萌香が彼女らと距離を置く様になったでしょう? 彼女も心の中では、ほっとしていたのよ。ところが、彼女のお父様が何者かに人質に取られたらしくて、『人質を解放して欲しければ、入生田萌香を誘いだせ』って言われたみたいなの……」
「それで、わたくしを敵に売ったってことですのね!!」
「萌香だって、学校生活を諦めて家族の為に闘おうって決心したじゃない? 家族の危機なのよ。分かってあげたら?」