勝利、だが……(4)

文字数 1,677文字

 大悪魔ブラウにも、少しは寧樹の言うことが伝わった様だった。
「だ、だが……、私の『危機察知』が……」
「それは、あなたの『危険察知』の熟練度が全然足りないからよ。あなたは周囲にいる者の

での戦闘力しか、把握できないでしょう……?」
「何?!」
「今の私は、あなたにとって大した脅威ではない。それは、哀れなあなたに私が少し同情し、闘志を持ちきれなかったことと……。それと、まだ理由がある。これよ……」
 次の瞬間、ブラウの身体に高熱でも発したかの様な倦怠感と悪寒、酷く飲み過ぎた翌日の様な恐ろしいまでの吐き気が襲って来る。
「意図的に私の大悪魔能力を、自分の身体の範囲内で阻害していたのよ。あなたが直ぐに死なない様にね……」
 床の上をのた打ち回りたくとも、倦怠感の為に動く事すら儘ならない。それは、彼が久しく感じてこなかった、生気の飢えからくる症状にも良く似ていた。
「あなた、大悪魔女帝から、彼女の能力をコピーすると、あなた自身の命が危ないって、警告されなかった?」
 苦しい息で、ブラウはそれに答える。
「確かにあいつは、自分の能力が惜しくて、俺がその力を使うのは、危ないって言っていやがった……」
「叔母さんが『能力をコピーすると命が危ない』って言ったのはね、ただ能力が惜しかったからじゃなくて、本当に命が危ないからなのよ。彼女の『危険察知』は常に作動し続ける大悪魔能力……。そして、危険が大きければ大きい程、不快感が増していき、生気の消費は激しくなる力なの。サント・ネイジュが存在するこの時空で、『危険察知』の能力を持ったらどうなるか、あなた、考えたことは無かったのかしら?」
 ブラウは逃げ出そうと床を這い出す。だが、それすら今の彼には思う様にならない。
「そうね……。自分の能力しか持っていなかったあなたには、分からなかったかも知れないわね。実は、同じ能力でも熟練度で威力に格段の差が出てくるものなのよ。
 あなたは、私と同じ大悪魔能力を持っているにしても、周囲にいる者の戦闘力しか把握できない。でも私なら、潜在的な脅威も感じとることが出来るし、ある程度、未来予知に近いことも出来る。叔母さんなら、仲間の位置や非生物の罠、そんな物だって感知できるわよ……。
 ま、悪魔能力だけを取っても、私たちより遥かに力が劣っているみたいね」
「く、くそ、それを知っていて、力を抑えていたのか……」
「そうよ。あなたは、叔母さんの能力をコピーした段階で、死ぬことが確定してしまっていたの……。哀れね……、本当に……。
 でもね、あなたが直ぐに死んじゃったら、叔母さんがずっとあなたの改心を待っていたってことが伝えられないから、敢えて私の戦闘力を低下させていたのよ……」
「改心?」
「そう。能力を奪うとか、世界を支配するとか考えるのは止めて、生き残った大悪魔を元の時空に率いていくって、どうして考えられなかったのかなぁ?」
「……」
「力には対価が付きまとうわ。10人近い人数の分の悪魔能力を持つには、それだけの生気の消費が必要だってこと、分からないの?
 私たちは、皆、能力を抑える道具を使用することで、何とかそれを維持しているのよ。結局、能力を持たない状態にしなければ、叔母さんたちは、普通に生きていくことすら儘ならない……。
 あなた、大悪魔女帝の傍で、彼女の行動をずっと見ていた筈でしょう? 何でそれが分からなかったのかしら……?」

 寧樹は、大悪魔能力封じの範囲を再び部屋一杯に広げた。
「さ、これで少しは楽になったでしょう?」
 ブラウは恐ろしいまでの不快感からは解放された。だが、既に生気は消耗し尽くしており、自由に動くどころか、立ち上がることも彼は出来ない。
 ブラウは別時空に逃げ込もうと、空間に時空の裂け目を創り出す。時空の裂け目とは、宙に浮いた暗黒の穴。だが、寧樹が指を鳴らすと、開いた穴は簡単に閉じてしまう。
「私は、良いとこどりのハイブリッド! 両方の能力を兼ね備えているだけじゃなく、大悪魔の基礎能力も純血の大悪魔より強いのよ。本当、不思議なものよね……」
 ブラウは恐怖に震えた。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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