大悪魔女帝の城(9)
文字数 1,837文字
月の美しい夜……。
カーテン越しに、その白く柔らかい輝きが部屋へと差し込んで来る。
「萌香……、眠れないの?」
「ええ、少し興奮してしまっているようですわ。遠足前の子供のようですわね……」
寧樹は思う。それは無理もないことだと。
「明日は、人類の存亡を掛けて闘おうって云うのよ、興奮して当然よ。もし興奮していないようだったら、ちょっと緊張感が足りなさ過ぎって注意した位だわ!」
「フフフ、そうですわね……。正直、驚いていますのよ。わたくしが、自分以外の人の為に、これ程、一所懸命に何かをしようとしているなんて……。昔だったら、わたくし、考えもしなかったでしょうね……」
「……」
「昔のわたくしには、自分の為とか、他人の為とか云う感覚が先ずありませんでした。だって、自分の望むことしかして来なかったんですもの……。勿論、今でもそうですわ。他人の為とか、みんなの為とか言っても、わたくし自身が闘うことを選んだのですし、わたくしの満足の為に闘っているのです……。
ただ……、今のわたくしには、わたくしの行動を応援してくださる方がいらっしゃいます。それに依って、わたくし、1人ではなく、皆様と一緒に闘っている気がするのです。それが、とても……、とても……、心地良いのです」
「そうね……、癖になるよね……」
「癖になりますわ!! それを覚えたら、もっと皆様と一緒に何かしたい! 応援される様なことをし続けたい! そう思ってしまいますもの」
「勝とうね、萌香……」
「ええ。勝ちましょう……、寧樹……」
静かな夜だった。
「お父さんと板橋隊員のこと、驚いた?」
「当然ですわ。入生田家の娘と云う、わたくしの立場でなければ、パニックになって、どうしていたか分かりませんもの」
「そうよね……。無理してたものね……」
「それは父も、ずっと同じだったのだと思いますわ。家にいる父は、綺麗に片付いた書斎の様な人でした。祖父の好みそうな立派な本が並んでいて、ゴミひとつも落ちていない。埃ひとつも積もっていない……。玩具が散らかっていることなど絶対にあり得ない……。
あんな情けない父を見たの、わたくし、初めてですわ……。板橋隊員の為に、あれ程あたふたして、慌てて……。でも少し、羨ましいと思いましたのよ」
「……」
「もう、仮面舞踏会は終ったのですよね」
「ええ、そうね」
「これからは……、世間から後ろ指差されるような、恥ずかしい入生田家になるのかも知れませんわね……」
「そんなことは無いんじゃない?」
「いえ、嫌なんじゃないのです。普通の家になるのかなって……。父も母も、わたくしも、失敗して、恥を掻いて、でも皆様と助け合って、一緒に戦って……。そんな、普通の家族になって行くのかなって……」
「そうね……。そうかもね……」
月光が雲に遮られたのか、少しの間、部屋は暗くなり、そして、暫くすると再び明るさが蘇ってくる。
「寧樹、わたくし、未来を見てみたい。色々と自分でやって、何度も失敗したい……」
「だから、絶対勝ちましょうね!」
「だから……、今回だけは、わたくし、お嬢様にさせてくださいません?!」
「え?!」
「明日の戦い……、寧樹に任せて宜しくて? わたくしの時空のことですから、わたくしが戦うのが筋なのかも知れません。でも、わたくし、明日だけは、どうしても勝ちたいのです。でしたら、わたくしより、寧樹が戦った方が勝つ確立が高いと思いますのよ。お願いします。わたくしたちの時空の為に、サント・ネイジュとして、寧樹が代わりに戦ってください!!」
寧樹はひと息いれてから、力を込めてこう答えた。
「了解よ! 萌香の思い、私が全力で大悪魔女帝にぶつけてあげるわ。相手が叔母さんだって決して容赦しないから。絶対、勝ってみせる!!」
そして翌朝……。
朝起きて仕度を済ませると、中庭に出た萌香はサント・ネイジュに変身する。そして、身体の制御を完全に寧樹に任せた。
「さ、行くよ、萌香!! 大悪魔女帝の城に、この星の人類の存亡を賭けて!」
そう言うと、寧樹は『瞬間移動』の呪文を唱え始める。
行ったことの無い場所へ、座標だけを頼りに瞬間移動するのは、魔法の天才である寧樹にとっても至難の技なのだ。
彼女は『遠視』を無声呪文で使い、視覚で位置の確認をした上で、有声呪文で精度の高い瞬間移動を行うことにした。
そして気が練れ、呪文が完成すると同時に、ネイジュは『瞬間移動』の魔法を発動させた。大悪魔女帝の城へ。大悪魔女帝との決着を付ける為に……。
カーテン越しに、その白く柔らかい輝きが部屋へと差し込んで来る。
「萌香……、眠れないの?」
「ええ、少し興奮してしまっているようですわ。遠足前の子供のようですわね……」
寧樹は思う。それは無理もないことだと。
「明日は、人類の存亡を掛けて闘おうって云うのよ、興奮して当然よ。もし興奮していないようだったら、ちょっと緊張感が足りなさ過ぎって注意した位だわ!」
「フフフ、そうですわね……。正直、驚いていますのよ。わたくしが、自分以外の人の為に、これ程、一所懸命に何かをしようとしているなんて……。昔だったら、わたくし、考えもしなかったでしょうね……」
「……」
「昔のわたくしには、自分の為とか、他人の為とか云う感覚が先ずありませんでした。だって、自分の望むことしかして来なかったんですもの……。勿論、今でもそうですわ。他人の為とか、みんなの為とか言っても、わたくし自身が闘うことを選んだのですし、わたくしの満足の為に闘っているのです……。
ただ……、今のわたくしには、わたくしの行動を応援してくださる方がいらっしゃいます。それに依って、わたくし、1人ではなく、皆様と一緒に闘っている気がするのです。それが、とても……、とても……、心地良いのです」
「そうね……、癖になるよね……」
「癖になりますわ!! それを覚えたら、もっと皆様と一緒に何かしたい! 応援される様なことをし続けたい! そう思ってしまいますもの」
「勝とうね、萌香……」
「ええ。勝ちましょう……、寧樹……」
静かな夜だった。
「お父さんと板橋隊員のこと、驚いた?」
「当然ですわ。入生田家の娘と云う、わたくしの立場でなければ、パニックになって、どうしていたか分かりませんもの」
「そうよね……。無理してたものね……」
「それは父も、ずっと同じだったのだと思いますわ。家にいる父は、綺麗に片付いた書斎の様な人でした。祖父の好みそうな立派な本が並んでいて、ゴミひとつも落ちていない。埃ひとつも積もっていない……。玩具が散らかっていることなど絶対にあり得ない……。
あんな情けない父を見たの、わたくし、初めてですわ……。板橋隊員の為に、あれ程あたふたして、慌てて……。でも少し、羨ましいと思いましたのよ」
「……」
「もう、仮面舞踏会は終ったのですよね」
「ええ、そうね」
「これからは……、世間から後ろ指差されるような、恥ずかしい入生田家になるのかも知れませんわね……」
「そんなことは無いんじゃない?」
「いえ、嫌なんじゃないのです。普通の家になるのかなって……。父も母も、わたくしも、失敗して、恥を掻いて、でも皆様と助け合って、一緒に戦って……。そんな、普通の家族になって行くのかなって……」
「そうね……。そうかもね……」
月光が雲に遮られたのか、少しの間、部屋は暗くなり、そして、暫くすると再び明るさが蘇ってくる。
「寧樹、わたくし、未来を見てみたい。色々と自分でやって、何度も失敗したい……」
「だから、絶対勝ちましょうね!」
「だから……、今回だけは、わたくし、お嬢様にさせてくださいません?!」
「え?!」
「明日の戦い……、寧樹に任せて宜しくて? わたくしの時空のことですから、わたくしが戦うのが筋なのかも知れません。でも、わたくし、明日だけは、どうしても勝ちたいのです。でしたら、わたくしより、寧樹が戦った方が勝つ確立が高いと思いますのよ。お願いします。わたくしたちの時空の為に、サント・ネイジュとして、寧樹が代わりに戦ってください!!」
寧樹はひと息いれてから、力を込めてこう答えた。
「了解よ! 萌香の思い、私が全力で大悪魔女帝にぶつけてあげるわ。相手が叔母さんだって決して容赦しないから。絶対、勝ってみせる!!」
そして翌朝……。
朝起きて仕度を済ませると、中庭に出た萌香はサント・ネイジュに変身する。そして、身体の制御を完全に寧樹に任せた。
「さ、行くよ、萌香!! 大悪魔女帝の城に、この星の人類の存亡を賭けて!」
そう言うと、寧樹は『瞬間移動』の呪文を唱え始める。
行ったことの無い場所へ、座標だけを頼りに瞬間移動するのは、魔法の天才である寧樹にとっても至難の技なのだ。
彼女は『遠視』を無声呪文で使い、視覚で位置の確認をした上で、有声呪文で精度の高い瞬間移動を行うことにした。
そして気が練れ、呪文が完成すると同時に、ネイジュは『瞬間移動』の魔法を発動させた。大悪魔女帝の城へ。大悪魔女帝との決着を付ける為に……。