仮面舞踏会の終わり(5)

文字数 1,571文字

 その呟きを聴き、萌香は寧樹に尋ねた。皆に聞こえる様に声に出して。
「寧樹、どう言うこと?! 私たちにちゃんと説明して!」
「隊長。以前、隊長は『人類はどう足掻いても、大悪魔女帝には勝てはしない』って仰ってましたよね」
 小田原隊長は、寧樹の言葉に無言のまま、コクンと頷いた。
「私はそれに、『勝てないなんてことは無い』と答えたと思います。勿論、理由があってのことではありません。でも何となくそう感じたのです。
 私はこれまで、耀子叔母さんと何回か格闘技の試合をしたことがあります。私は1度も勝ったことがありません。勿論、実力が違い過ぎるのは事実なのですが、それ以前に、どう修行しても、どう成長しても、どう足掻いても、勝てる気がしなかったのです。
 私はその理由を叔母さんに尋ねました。すると耀子叔母さんはこう答えてくれました。
『実力がついてくれば、有希ちゃんなら直ぐに私より強くなるわよ。でもね、今のままじゃ勝てないかな?』
 私は『どうして』って尋ねました。
 すると叔母さんは、『私たちは能力的に大きな違いは無いでしょう? 力量的な違いが殆どない場合は、より勝ちたいと願った方が勝つのよ。這い蹲っても、泥まみれになっても、格好悪く見えても勝ちたい。そう思った方が勝負運に恵まれるものなの。有希ちゃんは、負けるくらいなら武器を持って、それでも駄目なら不意打ちしてでも勝つ……なんて、これまで考えたこともないでしょう?』と言うのです。
『それって、絶対、卑怯じゃない?! やっぱり、正々堂々と闘いたいわ』って、そう私が言うと……。
『そうね。試合だったらね……。でも、本当に大切なものが賭かったら、何が何でも勝ちたいと思うものなのよ。そうなったら、自分の命を捨ててでも大悪魔は勝とうとするわ。そんな時、私たちは無敵になるの……。有希ちゃんがそうなったら、私でも、あなたのお父さんでも、例え、盈さんだったとしても勝てはしないでしょうね……』」
 寧樹の昔話に業を煮やした萌香が、話を戻そうと口を挟む。
「寧樹、わたくしたち、何故、大悪魔女帝が小田原隊長に情報をリークしたのかを知りたいと思っていますのよ。昔話は後にして下さらないかしら?」
 2人の会話はサント・ネイジュの口を使って行われたのだが、小田原隊長にも、火取志郎にも別人同士の会話だと言うことが不思議と理解できた。
「もう、萌香ったら……。そうね、なら、いい加減、全てを明らかにしましょうか? どうです、小田原隊長……。折角ですから、風祭隊員、湯本隊員、板橋隊員も応接室にお呼びになって、この滑稽な仮面舞踏会を全て終らせるって云うのは如何がでしょう?」

 小田原隊長はその提案を受け入れ、3隊員に業務を一時中止し、応接室に来るように内線電話で命じた。

 3隊員が応接室に入って来た時、彼らはそこにサント・ネイジュがいることに先ず驚いた。そして、その姿が入生田萌香に戻るの見て、2度驚いたのである。
 続いて、火取志郎が正体を現し、蝶や蛾などの鱗翅目の昆虫を思わせる頭部に変化した。別に彼が正体を現す必要もないのだが、それはもう、何となく勢いである。
「驚いたかしら? 私、寧樹こと新田有希が、入生田萌香さんに憑依して戦っていたのがサント・ネイジュの正体なのよ」
 萌香から発せられる寧樹の言葉に、風祭隊員が思わず銃を抜こうとする。だが、それは隣に立っていた湯本隊員に抑えられた。
「これから、私を始め、みんなで本音で語り合って貰おうかって思っているの。嘘は無しよ。私は小田原隊長以外なら、みんなの心が読めるからね」
 風祭隊員が小田原隊長の顔を見る。それに気付いた小田原隊長は、風祭隊員に向け大きく「うん」と頷いた。
「さて……、(つい)でに(あと)2人、特別ゲストをお呼びしましょうかしら……。準備が出来るまで、今暫くお待ちくださいね」
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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