萌香のいない日に(9)
文字数 1,841文字
コメット・モスは、サーラ・フジサワと名乗った美女の目的と正体を訊ねる。
「あなた、異星人なの? 何の目的があって、私たちを助けようと言うの?!」
「私、普通の人間で~す。それも、この時空生まれで~す。大悪魔や妖怪ではありませ~ん。私、天才ですから、大悪魔でなくとも時空航行可能な乗物造って、この時空に帰って来れるので~す。私の目的ですか? あなたの星から、地球への侵略行為を行わない様、宣伝して欲しいので~す。自分の星に帰って、近隣の星々にこう伝えてくださ~い。地球には奪うに値する美しい自然など、もうどこにも在りはしないと……」
「それは構わないけど……。確かに、私たちモス星人は、地球の現状を勘違いしていたのだし……」
「『自然がない』などと、嘘を吐くのは、嫌だとは思いま~すが、この地球を護る為なので~す。よろしくお願いしま~す」
コメット・モスは、それを嘘だとは思わない。だが、それで彼女が助けてくれると言っているのだ、ケチをつけて気分を害する必要もないだろうと考え直した。
「分かったわ。もし、助けてくれると言うなら、あなたの言う通りにしましょう。モス星人のひとりとして誓います」
「助かりま~す。男性のお仲間は、私の友人がもう助け出している筈で~す。では、そっちに行きま~す。お待ちくださ~い」
「あの……、看守や警備員は……」
「安心してくださ~い。この女子房一帯、私たち以外は、全員眠らせてありま~す。私、チョウ君と違って、普通の人間ですけど、実は大魔法使いで~す。この程度のこと、私なら簡単に出来ま~す」
「……」
「それに私、『科学の魔女』とも呼ばれていま~す。ここのセキュリティシステムに細工して、モス星人がいなくなったこと、当分の間、気付けない様にしていま~す」
そう言うと、サーラ・フジサワと名乗ったハーフの女性は、開けていた扉から手を離し、独房の中央へと無造作に入って行く。だが、扉はオートロックだったらしく、その儘バタンと閉じてしまい、部屋は再び闇に包まれ、2人は独房に閉じ込められた。
「扉が閉まって……」
「気にしなくて、大丈夫で~す」
サーラはコメット・モスの手を取ると、ゴニョゴニョと何やら呪文の様なものを唱えだす。そして、それが終った直後、フッと気合をいれると、2人の姿は霞にでもなった様にその場所から消えてしまったのである。
それは、知る人には珍しくもない魔法、『瞬間移動』であった。だが、コメット・モスは、その魔法で移動することはおろか、見ることも始めてだったのである。
その夜、そんな脱獄事件が起こっていたことなど露知らず、萌香は、寧樹に『瞬間移動』を使って貰い部屋に戻った。
部屋は内から鍵が掛かった儘で、明かりを点けて確認しても、誰かが中を荒した形跡などは全くなかった。
「大丈夫みたいでございますわ。私が部屋にいなかったこと、誰にも気付かれていなさそうです……」
「萌香、私のミスのせいで、討伐隊の仕事をサボらせちゃったね……」
「構いませんわ……。寧樹だって、私たちの地球の為に、ずっと、お時間をお使い下さっているのですもの。それに比べれば……」
萌香はそう言って、討伐隊専用通信機でない方のスマホを確認する。
「わ、いっぱいメールが溜まっておりますわ。宮城野さんからでしょう……、それから、片平さんからも来ている……。片平さんに、ご心配をお掛けしてしまったようでございますね。お電話をお掛けしなければなりません。え~と、湯本隊員からも来ておりますわ。なんでしょう? これは……」
寧樹も、折角なので湯本隊員からのメールを見せて貰うことにした。それは、彼のご両親がどうしても萌香に逢ってみたいと云うことなので、一度、都合をつけて遊びに来てくれないかと云う内容であった。
「湯本隊員のご実家は、大きな道場らしくて、お弟子さんの寝泊まり出来るお部屋が沢山あり、女性の内弟子さんもいらっしゃるそうですわ。ですから、安心して遊びに来てくださいとのことらしいですわ。温泉も引かれているそうで、温泉宿と思って来て欲しいと書かれていますわね……。でも、隊の皆様全員で行ったりして、討伐隊のお仕事の方は大丈夫なのでしょうか?」
寧樹は「いや多分、それ萌香しか誘ってないよ……」と思ったが、敢えて萌香の勘違いを訂正することは止めておいた。誘われているのが1人だと知ったら、恐らく萌香はお誘いを断るだろうし、そうなると、また、湯本隊員の寂しそうな顔を見なくてはならなくなるからだ。
「あなた、異星人なの? 何の目的があって、私たちを助けようと言うの?!」
「私、普通の人間で~す。それも、この時空生まれで~す。大悪魔や妖怪ではありませ~ん。私、天才ですから、大悪魔でなくとも時空航行可能な乗物造って、この時空に帰って来れるので~す。私の目的ですか? あなたの星から、地球への侵略行為を行わない様、宣伝して欲しいので~す。自分の星に帰って、近隣の星々にこう伝えてくださ~い。地球には奪うに値する美しい自然など、もうどこにも在りはしないと……」
「それは構わないけど……。確かに、私たちモス星人は、地球の現状を勘違いしていたのだし……」
「『自然がない』などと、嘘を吐くのは、嫌だとは思いま~すが、この地球を護る為なので~す。よろしくお願いしま~す」
コメット・モスは、それを嘘だとは思わない。だが、それで彼女が助けてくれると言っているのだ、ケチをつけて気分を害する必要もないだろうと考え直した。
「分かったわ。もし、助けてくれると言うなら、あなたの言う通りにしましょう。モス星人のひとりとして誓います」
「助かりま~す。男性のお仲間は、私の友人がもう助け出している筈で~す。では、そっちに行きま~す。お待ちくださ~い」
「あの……、看守や警備員は……」
「安心してくださ~い。この女子房一帯、私たち以外は、全員眠らせてありま~す。私、チョウ君と違って、普通の人間ですけど、実は大魔法使いで~す。この程度のこと、私なら簡単に出来ま~す」
「……」
「それに私、『科学の魔女』とも呼ばれていま~す。ここのセキュリティシステムに細工して、モス星人がいなくなったこと、当分の間、気付けない様にしていま~す」
そう言うと、サーラ・フジサワと名乗ったハーフの女性は、開けていた扉から手を離し、独房の中央へと無造作に入って行く。だが、扉はオートロックだったらしく、その儘バタンと閉じてしまい、部屋は再び闇に包まれ、2人は独房に閉じ込められた。
「扉が閉まって……」
「気にしなくて、大丈夫で~す」
サーラはコメット・モスの手を取ると、ゴニョゴニョと何やら呪文の様なものを唱えだす。そして、それが終った直後、フッと気合をいれると、2人の姿は霞にでもなった様にその場所から消えてしまったのである。
それは、知る人には珍しくもない魔法、『瞬間移動』であった。だが、コメット・モスは、その魔法で移動することはおろか、見ることも始めてだったのである。
その夜、そんな脱獄事件が起こっていたことなど露知らず、萌香は、寧樹に『瞬間移動』を使って貰い部屋に戻った。
部屋は内から鍵が掛かった儘で、明かりを点けて確認しても、誰かが中を荒した形跡などは全くなかった。
「大丈夫みたいでございますわ。私が部屋にいなかったこと、誰にも気付かれていなさそうです……」
「萌香、私のミスのせいで、討伐隊の仕事をサボらせちゃったね……」
「構いませんわ……。寧樹だって、私たちの地球の為に、ずっと、お時間をお使い下さっているのですもの。それに比べれば……」
萌香はそう言って、討伐隊専用通信機でない方のスマホを確認する。
「わ、いっぱいメールが溜まっておりますわ。宮城野さんからでしょう……、それから、片平さんからも来ている……。片平さんに、ご心配をお掛けしてしまったようでございますね。お電話をお掛けしなければなりません。え~と、湯本隊員からも来ておりますわ。なんでしょう? これは……」
寧樹も、折角なので湯本隊員からのメールを見せて貰うことにした。それは、彼のご両親がどうしても萌香に逢ってみたいと云うことなので、一度、都合をつけて遊びに来てくれないかと云う内容であった。
「湯本隊員のご実家は、大きな道場らしくて、お弟子さんの寝泊まり出来るお部屋が沢山あり、女性の内弟子さんもいらっしゃるそうですわ。ですから、安心して遊びに来てくださいとのことらしいですわ。温泉も引かれているそうで、温泉宿と思って来て欲しいと書かれていますわね……。でも、隊の皆様全員で行ったりして、討伐隊のお仕事の方は大丈夫なのでしょうか?」
寧樹は「いや多分、それ萌香しか誘ってないよ……」と思ったが、敢えて萌香の勘違いを訂正することは止めておいた。誘われているのが1人だと知ったら、恐らく萌香はお誘いを断るだろうし、そうなると、また、湯本隊員の寂しそうな顔を見なくてはならなくなるからだ。