大悪魔女帝の城(5)

文字数 1,534文字

 萌香は寧樹の言葉を聞いて、流石に唖然とする。それは火取志郎も同様であった。
「何を言っているんだよ! 俺が大悪魔女帝の訳ないだろう? 俺は本物だよ。現に小田原隊長が俺が正体を現しても、驚かなかっただろう? 彼は俺が脱獄していることを知っていたからなんだ!」
「ええ、そうね。あなたは、確かにモス星人の火取志郎だと私も思うわよ。でもね、あなたも気付けないうちに、大悪魔女帝は憑依ってのをすることが出来るのよ……」
 火取志郎の心の中で、別の人物の声が響いて来る。
「あらら、ご免なさいね。少しの間だけ、ちょっと身体をお借りするわね……」
 そして火取志郎は、声帯だけを擬態し、大悪魔女帝の声で話を始める。
「本当、性格悪いわねぇ。知っていて黙っているなんて……。私、最近は大悪魔女帝をしなくちゃ行けないから、時間が無くて、生気の強奪も簡単に出来ないでしょう? 少し生気不足なのよ。で、この身体を借りて、コレマタ振り回して、女漁りでもしようと思っていたのに……」
 大悪魔女帝は、板橋隊員の台詞を反復した上に、とんでもないことを言い出した。
「本当、何考えているのよ!」
「だって仕方ないじゃない。あなたたちの動静が知りたいんだもの。それに、仮に有希ちゃんが攻撃したとしても、火取志郎が死ぬ前に、憑依を解いて逃げるから大丈夫よ」
 寧樹は「琰でも(あて)がって、生気を奪ってやろうか? そしたら、叔母さんだって何も出来なくなるから……」とも思ったが、残念ながら、今、有希は琰を手元に持っていない。
「もう、止めてよね、冗談でも、そんなこと考えるの……」
 少なくとも、寧樹が心の中で口にした言葉は、全て大悪魔女帝に筒抜けになる。
「もう、スパイ活動禁止だからね!」
「分かったわよぉ。で、明日遊びに来てくれるのね。待っているわよ」
「ええ、宜しくね。JST10時頃にお邪魔するわ」
「OK。おもてなしを用意して待っているから、すっぽかしちゃ駄目よ」
 大悪魔女帝は、その言葉を最後に火取志郎の身体から憑依を解いて抜け出す。彼は力が抜け、再びソファにバタンと腰を降ろした。

 萌香は思わず感想を口にする。
「本当、神出鬼没でございますわね。あの大悪魔女帝って方は……」 
「ああやって、いつも人を吃驚させようとしているのよ。死んだ振りとか、秘密をこっそり調べておいて、何食わぬ顔で話して聞かせたりして……。でも、根は結構いい人なんだけどね……」
 萌香は「世界を滅ぼそうって方が、根は良い人でございますか……」とも思ったが、「寧ろ、根の良い潔癖で生真面目な人の方が、『神の指示』などと考え、極端な行動をしてしまうのではないか」と思い直した。
 とは言っても……。
「大悪魔女帝は、潔癖で生真面目な人ではございませんわね……」
 勿論、今の考えも寧樹には筒抜けだっただろうが、寧樹はそれについて萌香に何も言いはしない。
 その替わり……。
「火取君、君の処遇なんだけどね……、どうしようか?」
「え、処遇って何なんだよ? ちゃんと出頭したじゃないか? 許してくれたんじゃないのかよ?」
「誰も、脱獄したモス星人を許すなんて言っていないわよ。『ネイジュに会わせる』って言っただけだもん。ちゃんと彼女に会わせたでしょう?」
「ええ~っ?!」
 火取志郎は思わず一歩引いて、防御の構えを採る。
「あら? やるの? いいわよ。叔母さんと闘う前の肩慣らしが出来るから……。それに、あのコレマタってやつ、ちょっと興味あるのよね~。なんか珍味みたいな気がしない? 刻んで塩漬けにすると、酒の(あて)に最高だとか……」
 火取志郎はビビッて防御の構えを崩し、両手で股間を押さえてガードした。一方、萌香は「それはコノワタだろう……」って、思わず突っ込みをいれてしまう。
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登場人物紹介

入生田萌香


この物語の主人公。ゴーラ女学院付属女子高の二年生。祖父は、異星人排斥論者で知られる政界の大立者、入生田重国。気位の高いお嬢様と思われているが、実は気が弱く自分に自身を持てない少女。寧樹という謎の女性に助けられ、彼女が憑依することを許可する。そして、寧樹から入生田家の未来を見せられ、それを阻止すべく異星人討伐隊の一員(非常勤隊員)となる。

寧樹


萌香に憑依した謎の女性。腕輪を外すことで、全ての悪魔能力を解放でき、その擬態能力で「サント・ネイジュ」に変身する。従姉妹のサーラに頼まれ、この時空を救う為にやって来た。

小田原平蔵


異星人討伐隊隊長。人間ながら超人的な筋力と体力を持っている。

風祭隼


異星人討伐隊隊員。射撃を得意としている。

板橋羽根子


異星人討伐隊隊員。データや暗号解析のスペシャリスト。実戦はあまり得意ではない。

湯本譲治


異星人討伐隊隊員(非常勤隊員)。専門は作戦の立案。戦闘では日本刀を使う。

大悪魔女帝


剛霊武獣を操り、社会を混乱に陥れようとしている大悪魔軍団のリーダー。マスクとキャットスーツに身を包んだお喋りで小物感あふれる女性。寧樹と同様に大悪魔能力と魔法を自在に操ることが出来る。

ブラウ


大悪魔女帝に仕える大悪魔。『三つの質問』なる大悪魔能力を持ち、サント・ネイジュの謎に迫る。

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