入隊選抜試験(5)
文字数 1,056文字
「何を甘いこと言ってんだよ!」
風祭と呼ばれた青年が、小田原と萌香に近づいてきて、そう文句を言う。彼にしてみれば、「助けてやったのに」と云う気持ちだったのだろう。
「ご免なさい……」
「まぁ、そう言うな風祭」
自分でも、何でそんなこと言い出したのか分からず、申し訳なさそうにする萌香に、小田原が言葉を掛けた。
「あなたの云うことは尤もです。でも、安心してください。あれは人間でも、異星人でもありませんから」
「え?」
「あれは、剛霊武 獣と云う化け物なのです」
「剛霊武 獣?」
「あなたが異星人討伐隊に入ったら、それについて教えましょう」
「合格したら……、なのですか?」
「ええ、試験をこれ以上続けることなど出来はしません。現時点の成績で、恐らくあなたは合格になると思います」
その後で、萌香に聞こえない様に、彼はこう呟いていた。
「合格したことが、必ずしも良いとは思えませんけどね……」
小田原隊長から、係員に預けられた萌香は、その後、試験の中止を告げられ、控室で少し休んでから自宅に帰ることとなった。ま、あの状態では当然の処置であるし、流石にあのまま試験を続けることのできる、肝の座った受験者も多くはないだろう。
迎えの車が来るまでの間、萌香は控室で、幾つか寧樹に聞きたいことを尋ねていた。
「寧樹、わたくし、あなたに少し訊きたいことがありますの」
「疲れたから、後にして欲しいんだけどな」
「剛霊武 獣って何ですの?」
「それは、小田原さんが『合格したら話す』って言っていたでしょう?」
「その剛霊武 獣と闘う為、寧樹はわたくしに憑依されたの?」
「恐らく違うわ。私は従姉妹に頼まれただけ。この世界を護るように。それ以上は『何して欲しい』とか聞いていない」
「そのサーラと云う方は、一体、何を望んでいらっしゃるの?」
「知らない」
「寧樹、本当のこと言ってくださらない?」
「ご免、私眠いの。じゃ、お休み……」
この後は、萌香が何を訊ねても、寧樹がそれに答える事は無かった。
恐らく寧樹は、本当に寝た訳ではないだろう。萌香の質問に答えるのを、間接的に拒否したのに違いない。
「なんで、寧樹は、わたくしには何も答えてくれないのでしょう……」
萌香は気付いていない。
寧樹とは、自分に憑依している自分以外の生物なのだ。以前はそう考え、決して心を許すまいと心に決めていた。
それがどうだろう。今では彼女が、双子の姉妹の様に身近な存在に感じられる。
その双子の姉妹が、萌香に隠し事をして何も答えてくれないと云うことが、彼女にとって、今、とても辛いことであった。
風祭と呼ばれた青年が、小田原と萌香に近づいてきて、そう文句を言う。彼にしてみれば、「助けてやったのに」と云う気持ちだったのだろう。
「ご免なさい……」
「まぁ、そう言うな風祭」
自分でも、何でそんなこと言い出したのか分からず、申し訳なさそうにする萌香に、小田原が言葉を掛けた。
「あなたの云うことは尤もです。でも、安心してください。あれは人間でも、異星人でもありませんから」
「え?」
「あれは、
「
「あなたが異星人討伐隊に入ったら、それについて教えましょう」
「合格したら……、なのですか?」
「ええ、試験をこれ以上続けることなど出来はしません。現時点の成績で、恐らくあなたは合格になると思います」
その後で、萌香に聞こえない様に、彼はこう呟いていた。
「合格したことが、必ずしも良いとは思えませんけどね……」
小田原隊長から、係員に預けられた萌香は、その後、試験の中止を告げられ、控室で少し休んでから自宅に帰ることとなった。ま、あの状態では当然の処置であるし、流石にあのまま試験を続けることのできる、肝の座った受験者も多くはないだろう。
迎えの車が来るまでの間、萌香は控室で、幾つか寧樹に聞きたいことを尋ねていた。
「寧樹、わたくし、あなたに少し訊きたいことがありますの」
「疲れたから、後にして欲しいんだけどな」
「
「それは、小田原さんが『合格したら話す』って言っていたでしょう?」
「その
「恐らく違うわ。私は従姉妹に頼まれただけ。この世界を護るように。それ以上は『何して欲しい』とか聞いていない」
「そのサーラと云う方は、一体、何を望んでいらっしゃるの?」
「知らない」
「寧樹、本当のこと言ってくださらない?」
「ご免、私眠いの。じゃ、お休み……」
この後は、萌香が何を訊ねても、寧樹がそれに答える事は無かった。
恐らく寧樹は、本当に寝た訳ではないだろう。萌香の質問に答えるのを、間接的に拒否したのに違いない。
「なんで、寧樹は、わたくしには何も答えてくれないのでしょう……」
萌香は気付いていない。
寧樹とは、自分に憑依している自分以外の生物なのだ。以前はそう考え、決して心を許すまいと心に決めていた。
それがどうだろう。今では彼女が、双子の姉妹の様に身近な存在に感じられる。
その双子の姉妹が、萌香に隠し事をして何も答えてくれないと云うことが、彼女にとって、今、とても辛いことであった。