とある地方都市にて(4)
文字数 1,571文字
サント・ネイジュとブラウが、闘おうとしていた頃、入生田萌香は2種類目の焼きそばを食べ始めていた。
「最近のわたくし、どうも食が太くなってしままして、太ってしまわないか心配ですわ」
その心の声には、寧樹が答える。
「その辺は大丈夫よ。私が憑依している分、萌香は食事で栄養を取らなきゃならないのよ。その程度では太ったりしないわ」
「それでは、わたくし、いつも2人分食べなくてはいけないと云うことですの?」
「正確には違うわね。身体は一つなので、身体の維持と、萌香の成長に必要な栄養素は、あなた1人分よ。追加で必要になるのは、私に提供する生気の分なの。私が大悪魔の能力を使うには、人間の生気が必要なのよ。生気ってのは、生命エネルギーのこと。だから、あなたは食事をして、命を食することで、その分の生命エネルギーを補給しなければならないって訳なの」
「命を食する?」
「そう。食べるってことは、他の生命の命を奪うってことなの。そうやって生命エネルギーは循環しているのよ」
「命を、他の命を奪わなければ、生きてはいけませんの?」
「そうよ。それが命の循環。可哀想と思うかも知れないけど、それが現実。動物の肉をそれで食べなかったとしても、植物を食べることになる。動物、植物を食べずに鉱物を食べることにして、人間だけ命の循環から外れても、所詮は偽善に過ぎないわ。他の動物は殺し合いを続けていく。命の循環を守るためにね」
萌香はそれを聞いて、タッパーウェアに盛られた焼きそばをじっと見つめてしまう。確かに、豚、鰯、烏賊、小麦、キャベツ、その他、そこには幾つもの命が含まれているのだ。
「さ、萌香、食べよう!」
「でも……」
「お残しは、許しませんぞ!」
寧樹は、萌香に冗談めかして言葉を掛けた。でも、それは決して冗談ではないのだ。
その焼きそばの中にある命は、もう戻ることはない。ならば、その命に敬意を表して、自分の生命エネルギーとして取り込むのは、生き物としての義務ではないだろうか?
人は、否 、全ての生き物は命を奪って生きている。それは全ての生き物に優しくありたいと云う人間の感情とは矛盾している現実だ。だからこそ、人間は複雑な生き物であり、邪悪で、純粋な存在なのかも知れない。
萌香は、焼きそばを箸て摘まみ、すすってみた。何か、涙が出そうな気持ちになる。
「どう、美味しい?」
「ええ、とても美味しゅうございますわ」
寧樹の問いに、萌香はそう答えていた。
一方、ネイジュの攻撃を受けているブラウは必死の防戦を続けていた。
確かに、ネイジュは廻し蹴りしか仕掛けて来ないが、特に戦闘に関する特殊能力を持たないブラウにとっては、其れだけでも厳しい攻撃だと言わざる得ない。
「く、くそっ!」
「さ、そろそろ死んで貰おうかしらね」
ネイジュはそう言いながらも、突然、後廻し蹴り風に逆回転し、ブラウの鳩尾に横蹴りでぶち込み相手を吹き飛ばす。
その吹き飛ばされ、尻餅を搗いたブラウが起き上がろうと顔を上げた時には、既に敵の少女は彼の前に立ち、腰に手をして口元に笑みを浮かべていた。流石の大悪魔ブラウも、思わず恐怖に表情が引き攣る。
「どんな技で死にたい?」
だが、彼を護る為に翼竜の剛霊武 獣が息を吹き返し、ネイジュの背後を襲う。ネイジュもそれを予期していたかの様に、その体当たり攻撃を振り向きざま上からの空手チョップで叩き落とした。そして、間髪入れずに足元に落ちた剛霊武 獣の顔面を、力一杯に蹴り上げる。
ネイジュは自分に背後から襲いかかったことを後悔させてやるとばかりに、翼竜の顔面を左手で掴み上げ、片手で頭上高く差し上げた。それはもう、ブラウには生気を全て失った黒い鳥の干物にしか見えない。
そして握った手を開き、その干物が崩れ落ちる瞬間、ネイジュは容赦なくその嘴のある顔面を拳で殴り砕いていた。
「最近のわたくし、どうも食が太くなってしままして、太ってしまわないか心配ですわ」
その心の声には、寧樹が答える。
「その辺は大丈夫よ。私が憑依している分、萌香は食事で栄養を取らなきゃならないのよ。その程度では太ったりしないわ」
「それでは、わたくし、いつも2人分食べなくてはいけないと云うことですの?」
「正確には違うわね。身体は一つなので、身体の維持と、萌香の成長に必要な栄養素は、あなた1人分よ。追加で必要になるのは、私に提供する生気の分なの。私が大悪魔の能力を使うには、人間の生気が必要なのよ。生気ってのは、生命エネルギーのこと。だから、あなたは食事をして、命を食することで、その分の生命エネルギーを補給しなければならないって訳なの」
「命を食する?」
「そう。食べるってことは、他の生命の命を奪うってことなの。そうやって生命エネルギーは循環しているのよ」
「命を、他の命を奪わなければ、生きてはいけませんの?」
「そうよ。それが命の循環。可哀想と思うかも知れないけど、それが現実。動物の肉をそれで食べなかったとしても、植物を食べることになる。動物、植物を食べずに鉱物を食べることにして、人間だけ命の循環から外れても、所詮は偽善に過ぎないわ。他の動物は殺し合いを続けていく。命の循環を守るためにね」
萌香はそれを聞いて、タッパーウェアに盛られた焼きそばをじっと見つめてしまう。確かに、豚、鰯、烏賊、小麦、キャベツ、その他、そこには幾つもの命が含まれているのだ。
「さ、萌香、食べよう!」
「でも……」
「お残しは、許しませんぞ!」
寧樹は、萌香に冗談めかして言葉を掛けた。でも、それは決して冗談ではないのだ。
その焼きそばの中にある命は、もう戻ることはない。ならば、その命に敬意を表して、自分の生命エネルギーとして取り込むのは、生き物としての義務ではないだろうか?
人は、
萌香は、焼きそばを箸て摘まみ、すすってみた。何か、涙が出そうな気持ちになる。
「どう、美味しい?」
「ええ、とても美味しゅうございますわ」
寧樹の問いに、萌香はそう答えていた。
一方、ネイジュの攻撃を受けているブラウは必死の防戦を続けていた。
確かに、ネイジュは廻し蹴りしか仕掛けて来ないが、特に戦闘に関する特殊能力を持たないブラウにとっては、其れだけでも厳しい攻撃だと言わざる得ない。
「く、くそっ!」
「さ、そろそろ死んで貰おうかしらね」
ネイジュはそう言いながらも、突然、後廻し蹴り風に逆回転し、ブラウの鳩尾に横蹴りでぶち込み相手を吹き飛ばす。
その吹き飛ばされ、尻餅を搗いたブラウが起き上がろうと顔を上げた時には、既に敵の少女は彼の前に立ち、腰に手をして口元に笑みを浮かべていた。流石の大悪魔ブラウも、思わず恐怖に表情が引き攣る。
「どんな技で死にたい?」
だが、彼を護る為に翼竜の
ネイジュは自分に背後から襲いかかったことを後悔させてやるとばかりに、翼竜の顔面を左手で掴み上げ、片手で頭上高く差し上げた。それはもう、ブラウには生気を全て失った黒い鳥の干物にしか見えない。
そして握った手を開き、その干物が崩れ落ちる瞬間、ネイジュは容赦なくその嘴のある顔面を拳で殴り砕いていた。