第147話、曹操
文字数 4,920文字
戦陣に在る日は、年を知らない曹操も
いかんせん彼もすでに今年六十五という
などと時々気に病んでいたりした。
ある時、側臣である華歆が、
病人は眸に希望をかがやかしてそう命じた。
華陀は到着すると、その日のうちに登殿して、曹操の病間へ伺候した。そして慎重に眼瞼や脈をしらべて、
と、診断した。
曹操はうなずいて、
と、華陀はちょっと難しい顔をして考えこんでいたが、ややあって、
曹操は
病人はがばと起き、
せっかく名医に会いながら、彼は名医の治療を受けなかった。のみならず
ところが、典獄の
華陀はふかく恩を感じて、ある日、人目のない折、
と、落涙して云った。
「いま、郷里の家人へ宛ててわしが書簡を書くから、金城のわしの家まで行って、その医書を貰って参るがよい。書簡の内へも書いておくが、それは
華陀は留守のわが家へ宛てて手紙を書いた。そしてそれを
すると、ある日の早暁、突然、剣を提げた七名の武士がどやどやと獄府へ来て、
「魏王のご命令である。ここを開けろ」
と、牢番に命じて、華陀のいる獄の
呉押獄がそこへ来て見た時は、ちょうど血刀を提げた七名が、悠々と帰って行くところであった。武士らは彼のすがたをかえりみて、
「呉押獄、魏王のご命令で、ただ今、華陀は成敗したぞ、あいつめが、毎晩のように、お夢の中にあらわれるゆえ、斬殺して来いとのおいいつけに依ってだ」と云い捨てて行ってしまった。
呉押獄はその日のうちに、役をやめて金城へ旅立った。そして華陀の家を尋ねて手紙を渡し、
久し振り、酒など飲んで、妻にも語り、その晩はわが家に寝た。
翌朝、ふと庭面を見ると、妻は庭の落ち葉を積んで、
と、焚火を踏み消して叫んだが、青嚢の書はもう落葉の火と共に灰になっていた。
彼の妻は、血相を変えて怒り立つ良人へ、灰の如く、冷やかに云い返した。
「たとえあなたの身が、どんなに
――ために
冬の初め、ひとたび危篤を伝えられたが、十二月に入ると、曹操の容態はまた持ち直して来た。
呉の孫権から、見舞の使節が入国した。書簡のうちに、呉はみずから臣孫権と書いて、
(魏が蜀を討つならば臣の軍隊はいつでも両川へ攻め入り、大王の一翼となって忠勤を励むでしょう)
と、
曹操は
と、つぶやいた。
老龍ようやく
――が、曹操は、
と、いうのみで、自身が帝位に
またある折、
と、将来のために一言した。
曹操は、至極とうなずいて、
冬雲の凍る十二月半ばの頃から、曹操の容態はふたたび険悪に落ちた。一代の英雄児も病には
「みなこれ、
と侍臣がいうと、曹操はなお苦笑して、
と、退けて、その後で、重臣すべてを枕頭によびあつめ、
「予に、四人の子があるが、四人ともが、みな俊英秀才というわけにもゆかない。予の観るところは、平常のうちに、おまえたちにも語っておる。汝らよくわが
おごそかに、こういうと、曹操はその瞬間に六十六年の生涯を一望に回顧したのであろう、涙雨のごとく頬をぬらし、一族群臣の
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