第118話、劉璋の決断、劉備の決断
文字数 4,336文字
実に遠い旅行だった。張松は日を経て、ようやく故国益州へ帰ってきた。
すでに首都の
と、二人の友が早くも迎えに出ていて、その姿を見るなり近づいてきた。
張松は馬を降りて、こもごも、手を握り合った。
友は彼をさそって、松の下へ来た。茶を喫し、道中の話などにふけったが、そのうちに、張松は、
と、ふたりに訊ねた。
法正は、
孟達の顔を見ると、孟達も、ひとみをかがやかして、
三人は、血盟して別れた。
次の日張松は、成都に入り、劉璋に
もちろん、曹操のことは、極力
劉璋は面に狼狽のいろを隠せなかった。
気が弱い、策がない。劉璋はただ不安に駆られるばかりな眼をして云った。
張松は語を強めた。そしていうには、
するとこの時、
「ご主君っ、耳に
驚いて振り向くと
劉璋は眉をしかめて、
と、一喝した。
黄権は屈せず、面を
こうなると、張松も黙っていられない。国家の危機とは、これからのことではない、今やすでにその危機にある蜀である。もし漢中の張魯と魏の曹操が結んで今にも国内へ進撃してきたらどうするか。ただ強がるばかりが愛国ではないぞ、ほかに良策があるならここで聞かせよ、と
と、ふたたび帳外から、
云いつつ大歩して君前にまかり出てきた人物がある。従事官
王累は、頓首して、
かくて遂に、張松のすすめは劉璋の容れるところとなってしまった。使いを命じられた法正は、前日の諜し合わせもあり、張松とはどこまでも主義を同じくしているので、劉璋の書簡を持つと、道を早めて荊州へ赴いた。
劉備は、使者の名を聞いて、すぐ張松と別れた日のことばを胸に想いうかべた。
直ちに、法正を見、かつ書簡をうけて、その場でひらいた。
書面の冒頭にはこう書き出してあった。
その夜、劉備は独りで、一室に考えこんでいた。
龐統は一笑に附していう。
劉備もようやくうなずいた。蜀へ入りたいのは彼とて山々のところである。何せい荊州は戦禍に疲弊している。地理的には東南に孫権、北方に曹操があって、たえず
程なくその孔明も姿をあらわした。三名は
翌日、法正にも、この旨をつたえ、同時に陣触れを発して、いよいよ入蜀軍の勢揃いをした。
劉備はもちろんその中軍にある。
龐統を軍中の相談役とし、
しかし、何より大事なのは、荊州の守りである。万一にも、この遠征軍がやぶれた時、あるいは、南に孫権がうごくか、北の曹操が留守の間隙をうかがうなど不測な事態が生じたとき、万全な備えがなくてはならない。――また征旅に上る劉備にしても、その安心がなくては、腰をすえて蜀へ入れない。
で、荊州には、孔明が残ることになった。
その配備は。
江陵城に趙雲。
といったように、名だたる者を要所要所にすえ、孔明がその中央荊州に留守し、四境鉄壁の固めかたであった。
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