第47話、二虎競食の計、駆虎呑狼の計
文字数 5,592文字
軍師、謀士。
そのほか、
真ン中に、曹操がいた。面上、虹のごとき気宇を立って、大いに天下を談じていたが、たまたま
曹操がいうと、
と、
すると、
荀彧である。
許褚は口をつぐんでしまった。彼は自分がまだ、智者の間に伍しては、一野人にすぎないことを知っていた。
曹操は、
曹操は、大きくうなずいたのみで、後の談話はもうそのことに触れなかった。
が、彼の肚はきまっていたのである。それから数日の後には、帝の詔勅を乞うて、勅使が、徐州へ向って立った。同時に、その使者が曹操の密書をもあわせて
徐州城に、勅使を迎えた劉備玄徳は、勅拝の式がすむと、使者を別室にねぎらって、自身は静かに、平常の閣へもどってきた。
彼は眼をみはった。
何度も、繰返し繰返し読み直していると、後ろに立っていた張飛、関羽のふたりが、
張飛は、あくまでも、呂布討つべしと主張したが、劉備は、従う色もなかった。
すると翌日、その呂布が、
呂布は、なにも知らない様子であった。
彼はただその日、劉備玄徳に勅使が下って、正式に徐州の
で――しばらく劉備とはなしていたが、やがて辞して、長い廊を悠然と退がって来ると、
と、いうや否、大剣を抜き払って、呂布の長躯をも、真二つの勢いで斬りつけて来た。
呂布の
「義なく、節なく、
「待てっ、張飛」
斬り損ねたのである。
誰か、うしろから張飛の
劉備は、声を荒げ、
張飛は横へ
張飛の乱暴を詫び入りながら、劉備はもう一度、自分の室へ呂布を迎え直して、
「今、張飛が申したことばの中、曹操から貴君を刺せと密命があったということだけはほんとです。――が、私にはそんな意志がないし、また、
と、曹操から来た密書を、呂布に見せて、疑いを解いた。
呂布も、彼の誠意に感じたと見えて、
呂布は却って感激して退がった。――それらの様子を、ひそかにうかがっていた曹操の使者は、
「失敗だ。これでは、二虎競食の計もなんの意味もない」
と、
と、仔細は書面にしたためて、謝恩の表と共に、使者へ託した。
使者は、許都へ帰った。そしてありのまま復命した。
曹操は
南陽へ、急使が飛んだ。
一方、それよりも急速に、二度目の勅使が、徐州城へ勅命をもたらした。劉備は、城を出て迎え、
劉備は
弱点か、美点か。
果たして彼は、敵にも見抜かれていた通り、勅の一語に、身うごきがつかなかった。
劉備の決意は固い。
糜竺をはじめ諸臣は、皆それを知ったので口をつぐんだ。
関羽は、進み出て、
と、自薦して出た。
と、劉備が沈思していると、つと、張飛は一歩進み出して、例のように快然と云った。
「あいや、家兄。そのご意見は
彼は常に所持している
その杯は、どこかの戦場で、張飛が分捕った物である。敵の大将でも落して行ったものか、夜光の名玉を磨いたような馬上杯で、(これ、天より張飛に賜うところの、一城にも
酒を解さない者には、一箇の器物でしかないが、張飛にとっては、わが子にも等しい愛着であろう。その上に、禁酒の約を誓言したのである。その
情に感じ易い張飛は、劉備の恩を謝して、心からそう答えた。すると
と、冷やかした。
張飛は怒って、
劉備はなだめて、留守中は何事も
と云いのこし、やがて自身は、三万余騎を率いて、南陽へ攻めて行った。
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