第8話、童学草舎の関羽
文字数 2,388文字
五、六里も来ると、一条の河があった。
楊柳に囲まれた寺院がある。塀にそって張飛は大股に曲がって行った。すると大きな
という看板がかかっていた。
張飛は、烈しく、奥の家の扉をたたいた。すると横の窓に、うすい灯がさした。
窓の灯が、中の人影といっしょに消えた。間もなく、たたずんでいる張飛の前の扉がひらかれた。
手燭に照らされてその人の
眼は
張飛のことばに、
「ばかをいえ。それがしを、そう飲んだくれとばかり思うているから困る。平常の酒は、鬱屈をはらすために飲むのだ。今夜はその鬱屈もいっぺんに散じて、愉快でならない吉報をたずさえて来たのだ。酒がなくても、ずいぶん話せることだ。あればなおいいがな」
暗い廊を歩いて、一室へ二人はかくれた。その部屋の壁には、孔子やその弟子たちの聖賢の図がかかっていた。また、たくさんな机が置いてあった。門柱に見えるとおり、童学草舎は村の寺子屋であり、
と、やや突っかかるような言葉で反問した。
雲長はまた笑い、
「これから楼桑村へゆけば、真夜中を過ぎてしまう。初めての家を訪問するのに、あまり礼を知らぬことに当ろう。なにも、明日でも明後日でもよいではないか。それが、貴公の性質だが、偉丈夫たる者はよろしくもっと沈重な態度であって欲しいな」
せっかく、一刻もはやくよろこんでもらおうと思ってきたのに、案外、雲長が気のない返辞なので、
「雲長。尊公はまだそれがしの話を、半信半疑で聞いておるんじゃないか。それで、渋ッたい
「騙されても、騙されたと覚らぬほど、尊公はお人が好いのだ。それだけの武勇をもちながら、いつも生活に困って、窮迫したり流浪したり、皆、尊公の浅慮がいたすところである。その上、短気ときているので、怒ると、途方もない暴をやる。だから張飛は悪いやつだと誤解をまねいたりする。すこし反省せねばいかん」
雲長は、劉備の家を訪問するなどもってのほかだといわぬばかりなのである。彼は、張飛にとって、いわゆる義兄弟の義兄ではあるし、物分りもすぐれているので、話が、理になってくると、いつも頭は上がらないのであった。
出鼻をくじかれたので、張飛はすっかり
と、張飛はすっかり無口になって、その晩は、雲長の家で寝てしまった。
夜が明けると、
雲長へいって、張飛はどこかへ出て行った。
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