第89話

文字数 1,722文字

ぼくには友だちがあまりいない。

孤独、だと思う。

だからもしも仕事が出来なければ、人との関わりは極端に少ないものになっていただろう。

仕事が出来るかどうかという点でいうと、危うい部分もあるのだが、十五年くらい社会の中でもまれてきて、アルバイトのような仕事ばかりだったけれど、一応、仕事の真似事のような事は出来るようになりました、(と思う。)

雇われて、黙々と働く仕事をやるのは、まあまあやれるようになった、と。

そこそこ真面目に働きます。

でも、手先が器用で木彫りの熊を上手に彫れるとかではなくて、前は倉庫の仕事を一生懸命にしていたけれど、今は、福祉と介護の分野で生きていこうとしている。

この分野で、熟練度も上げて、研修も積極的に受けたりして、少しは使える人材になろうと思っている。

精神障害ってなんだろうと思う。ぼくは月に一度か二度、精神科に通う。そして毎日薬を飲んでいるし、頓服の薬も飲んでいる。それでも、ココロがすさんですさんで、仕事を休みたくなる日がある。実際、休んだり、午後から行ったりする日もある。

三十年前だったら、精神科の病棟に出たり入ったりして、仕事どころではなかったようなニンゲンだったかもしれない。

それを考えると、ウンが良いのだ。

数少ない友人というか、付き合いのある人で、やはり精神障害者の人がいる。

何年か前に就労継続支援A型作業所に通った時に知り合った人で、その人は一般では無理だろうと思えるような人だ。

一般の世界は厳しくて、ボクは一度だけA型作業所で働いた時に、なんて楽だと思ったものだ。けれどしばらくする内、物足りなく感じるようにもなった。

一般の仕事の、熱い感じが懐かしくなったりした。

福祉的就労。小さな部品を小さな袋に入れて、数を数えて、シーラーで留めて。一日四時間の仕事。

それに比べると、今は責任もあるし、一日どっと疲れて、帰ってご飯食べたら布団で寝るだけだ。

人生ってなんだろう。本が読みたい。本を少しは読みたい。月に二、三冊ぐらいは。

仕事のある日は、仕事にアタマが汚染されるのか、それともアタマまでもが疲れ切っているのか、本を読む気力はなかなか湧かない。そんな時は風呂に入ってさっさと寝てしまう。本より仕事のほうが大事だ。

仕事ってなんだろう。責任。そして、生活の糧。世の中に無数の仕事があり、そして誰かがアタマをひねって新製品を開発し、新商売を発明し、世の中はどんどん便利になった。世の中はどんどん面白くなった。

だから、生活するってことは、仕事するって事でもあると思う。仕事をする能力がそこまでない知的障害者にも、仕事をしてもらおうというのが、今のぼくの仕事の一部である。重要な。そしてそれを支援、と呼んでいる。

こういうことも現代生活には入ってくるのである。福祉という分野だ。まだまだ未開拓の分野だ。

精神障害者は難しい。

知的障害者と違って、どんな仕事がどんな風にやれるのか、簡単には分からないからだ。いや、知的障害者の場合ですら、どんな仕事をどんな風にやれるか明白などではないのだが!!

仕事、仕事、仕事。孤独なボクの仕事。仕事を通じてボクは人の世と、関わり合う。労働を通じて人生の中身を充実させていると思う。

町内会の役員になった。週4日9時5時で働いているだけだから、それぐらいやれる余裕はあるだろうと考えたのだ。そして、これから長く暮らす地域に知り合いの少しでも作りたいと考えてのことだ。

これもまた、ぼくにとっては仕事の一つなのかもしれない。仕事を通じてぼくは人と関わるのかもしれない。

仕事ってなんだろう?わかるのは、仕事がないと、人生の充実は、今とは違うカタチになっていただろうという事だ。

十年前、北海道にいた。そして精神科の治療もまだ受けていなかった頃、ミラジーノというちっちゃい車を走らせて、北海道の道をソフトクリーム食べながら走らせたり、百均で買った絵の具で絵を描いたりしていた。

その時にも人生は少しは充実していたような気がする。でもあの頃に戻りたいとは思わない。この先の未来の方に希望を抱いている。

仕事。中途半端にやれてる仕事でしかないが、叱られたりいじめられたりはしない。苦しくはない。

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