第47話

文字数 795文字

ウィルソンだった頃の事を書きたい。

すべてが、コリン・ウィルソンだった頃の事。

コリン・ウィルソンの本と出会ったのは、浪人一年目の秋だったと思う。

ユングの伝記から入って、当時河出文庫から一気に何冊も出てきてた「コリン・ウィルソンコレクション」の中の、「宗教とアウトサイダー」を読んでハマり、「オカルト」「ミステリーズ」などの分厚いのも読み、英語の勉強も兼ねて、「アウトサイダー」は原書にチャレンジまでした。

ウィルソンは思想家だった。ぼくに、諦めないこと、を、教えてくれた。

何を諦めないのか?

ぎりぎり最低限の清々しさみたいなものをではないか?

人としての、ぎりぎりのところを諦めたらいかんよと言っていた気がする。

ウィルソンを読んでなかったら、近大の医学部という、自分にはあまりにも合っていなかった環境で、ぼくはどうなっていたか分からない。

医者の世界という、独特の魑魅魍魎うごめく世界を、曲がりなりにもちょっとだけのぞいた。敷居は高かったけれど、同時にぼくの目からすると、あんまり論理的じゃない部分も、情念に染まりすぎている部分もあるように思えた。

高度な科学で装いながら、大した事のない、普通の情念が偉そうに白衣を着ている事だってあるのだ。

ウィルソンを読みながらもそういう世界に3年浪人してまでも飛び込み、ウィルソンを読みながらそこで9年間もがき最後には飛び出した。

やがて社会に出てしばらくして、ウィルソンは読まなくなった。ウィルソンの理想は、作家の理想だなと思うようになった。

自分自身の、生身の肉体のぎりぎりの理想を欲するようになった。資格の勉強なども、ポツポツとするようになった。

あとまだ、二十年は働けるとして、倉庫や、危険物を扱う仕事で世の中に少しでも貢献したいと想う。その中で、想うことなど、文章にもして、少しは表現ってやつで世の中に発信出来たらな、とも思う。

その2段重ねでやっていこうかな。
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