第90話

文字数 1,194文字

狂気。

狂気はボクの場合、武器である。むやみと振りかざしては人から嫌がられたりする、武器である。

エヴァンゲリオンでシンジ君の乗るエヴァが使うカッターナイフみたいな武器を想像してほしい。

そういうのが、ぼくの中に収納されている。中2病の中高年のためのノクターンだ。

そう言いつつも、精神科に通って薬を服用し、きっちり押さえ込もうと心がけていたりもする。

ソクラテスを主人公にしたプラトンの、小説のような哲学書を二、三、昔読んだことがある。そこでは、狂気について、ロマンチックな事が語られていた気がする。

ソクラテスは狂気の事をデーモンと呼んで、インスピレーションの源とするのだった。

朝、散歩をしてきた。近所の中学校の周りを歩いていると、三人、四人と連れ立って、制服姿の女子が歩いてくる。

Tシャツ短パンで近づいてくる、剛毛のこのオヤジの姿に、無意識にか目を背ける者もいる。

だがそうせず、ひたとこちらを見て歩いてくる女の子もいた。

独りで歩いている。その表情が、なんとなくデモーニッシュで美しく思えた。

つるんでいる人々と、独歩する人。独歩する人は強く、つるむ人々には独特の軽さがある。

ずっと独りでいることは辛い。休み時間に話す人もいないのは、辛かろう。

社会に出ると、否でも応でも人との交わりや会話があるので、その点は助かっている。

月に一度や二度の、精神科主治医との会話も、ぼくにとっては大切な、『人との会話』だ。

つるむのが、面倒くさい、ということもある。つるんでいた季節を、強引に終わらせてしまった過去もある。そんなこんなで今、町内会で役員になり、年配の方々と行動を共にすることになった。

地域に棲むことになり、孤独は癒やされそうである。

対人援助職に就いていることも大きい。

職場の中で孤立しているような気分になっている時、そんな時ですら、いや、そんな時でこそ、ほとんど言葉を発することが出来ない、菩薩様のような利用者さんが、大切な友達のように思えてきたりする。

健常者とのつながりがうまく行かなくても、障害者とは上手くやっていけることがある。若者からは相手されないとしても、老人は、僕を見て若いと言い、可愛がってくれることさえある。

世界中、50億のにんげん全員から嫌われたり無視されたりすることなどはなく、誰かはきっとこのぼくにすら関心を持つ。

ぼくもそう。

世界には、ぼくと合う人がいる。ぼくが心から賞賛を寄せられるような人と出会う事もある。

色々な人がいるのだから、人と交わってみる事は大切だ。誰かを見つけるために社会に出ていくのだ。

ブルーハーツの歌じゃないが、良いやつもいれば悪いやつもいるだろう。

自分にとってのいいヤツ、悪いヤツ。合うやつ、合わないヤツ。

人人々、と過ぎて、本当に、少しの人で良いんだなと想った。

本当に少しの人と、親密な付き合いをしてみようかと思う。そこからきっと人生がまた、開けてくるだろう。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み