第45話

文字数 729文字

ぼくのはたちのころ、青春時代が何かって言うと、汚れきり荒み切った話だが、『風俗』だった。

私立の医学部に通いながら、親が渡してくれるおこづかいで風俗に足しげく通っていたのだ。

二十代のころ、吹き荒れる孤独の嵐の中で、ひたすら欲していたのは、女の柔肌だった。「神経を和らげてくれるものが欲しい」と心で言いながら風俗に行っていたのだ。

女の子の友達が欲しかった。医学の勉強などしたくもなかったし、もうその頃は頭もきっとおかしくなっていてまだ治療にもかかっていなかったから、勉強など、したくても出来なかったのだ。

苦しかった。

女を渇望していた。自分が、容易に人を切ってしまう妖刀のように思え、それをくらますでもなく言いくるめるでもなく、ただあやし、包んでくれる存在が欲しかった。

ナンパも何回かしたことがあり、実際に女の子と会話をすると、なにがなんだかで、もう駄目だったけれど。

とげとげした、神経になやまされる存在で、どこかでおおらかな包容力を求めていた。

切望していた。

その一方で、コリン・ウィルソンという男の本をじっくりと読み、「思想」にかぶれていた。思想に憧れていた。

(どの口で言うのかという感じだが)理想を追い求める気持ちが強かった。

それがぼくの、二十歳のころである。何度も何度も思い出す。何度も何度もこのころのことは語ってきたし、書いてもいる。重要な時代なのだ。二度と帰ってはこない時代なのだ。

それでいて、決して、ぼくの場合は、『黄金期』ではない。いわゆる黄金期は、その十年後ぐらいに来た。その時には、年賀状も人生で一番もらったし、短い期間だったが、『女の子のトモダチ』というやつもできた。

もったいないことに、その黄金期をぼくはどぶに捨ててしまった。まあ、私事デス。
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