第72話

文字数 736文字

ぼくは宗教が好きだ。

仏教もキリスト教も神道も、好きだ。

仏壇で手を合わせるのも、神社や神棚でかしわ手を打つのも、初詣も、(昔根室の教会で行っていた)日曜日の礼拝も、大好きである。

コリン・ウィルソンという作家のことが昔好きだった。孤独を愛した作家だ。孤独な人間には、集中力以外には、頼るものがない。集中力は、コミュニティや共同体に何をもたらすか?これが宗教が答えることのできる命題だと思う。

数息観というのがある。禅の簡易的な行法の一つで、静かに呼吸をしながら、ひとーつ、ふたーつ、と頭の中で自分の息の数を数えていくのだ。

こういうことをすると、まず落ち着きの効果が生まれる。頭の中が冴えてきたり、感覚が鋭くなったり、冷静になれるかもしれない。

こういうことをたまに集団でやったとしたら、どうだろうか?作業や仕事の能率がアップする、などの効果が期待できるのではないか?

孤独は、人の心に奇妙な歪みをもたらす。孤独な人間は、共同体に貢献するものを何も持たないかもしれない。強いて言えば、彼の、集中力への、奇妙なこだわりは、何らかの発展への前段階であるかもしれないとは言える。

孤独で、異常な集中力を発揮する人間は、自分はモテていると思い込むことがあるかもしれない。けれども、共同体に何も貢献しない人間がちやほやされることはない。

集中力が、集団の冷静さに影響を与えることが出来て初めて、それは評価の対象となるのだ。

それでも、ぼくはこれから、思い出したように、数息観をたまにやる自分でありたいと思う。もしも静けさや集中力から何かが生み出されるとしたならば、それは価値があることだとぼくは思うからだ。

この『価値』とは、共同体への貢献と何か関わりがあることなのかどうか、ぼくにはそれは分からない。
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