第44話

文字数 709文字

退屈との戦い方・・・はたちのころ、ぼくは退屈との戦いに失敗していた。医学部専門の予備校にいた。それは将来のことを「そんなもの」だと思っていたからだ。医者にでもならなければ、やってられないのが人生だと感じていた。

ある意味ではそれはその通りだったと言える。ぼくは私立の医学部に入り、そこを中退したが、医者になれた元の同級生たちの生活は派手で、楽しそうである。留学したり海外で暮らしていたりするのもいる。

こんなことを書く、ぼくは、退屈極まるにんげんだろう。

退屈との戦い方。

退屈は、自分自身の生活の仕方の中にある。退屈だと感じる感性が磨滅しているだけかもしれないのだ。でもどこかできっと「退屈だ!」と感じているのではないか?

医学部の授業についていけなくて、それになによりも、本心から医者になりたいわけでもないのに医学部にいることによって、ぼくの心は悲鳴を挙げた。ぼくは狂って窓から飛び降りた。

そのあとも、ずっとずっと退屈だった。この国では、退屈でないものを見つけることはなかなか難しい。退屈と興奮とは違う。銭湯は、退屈でない稀有な場所の一つだが、そこで若者たちがバカ騒ぎをしていることがある。興奮しているのだ。興奮したからと言って退屈が消沈するわけではなく、あとでもっと勢いを盛り返してやってくるだろう、空しさってやつが。

人を退屈させる、退屈な言葉、の並び。

人を退屈させる、退屈な表情。(退屈している、という表情のことではない)

人を退屈させる退屈な映像や音楽や笑い。

退屈なものに囲まれて退屈しているのなら、出かけなければならない。見つけに行かなければならない。

探しに行こう。一緒に探しに行こう。

『帝国の退屈』から脱出するのだ!
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