第64話

文字数 1,752文字

病。

統合失調症とは何なのかが、いまだ、自分でも良く分からない。



おぼろげに分かるのは、今の仕事で、初めのころ、つまり一年前から半年前にかけて、インスタグラムでの投稿を女性の正社員に監視されているのではと疑ったことなどに見られるように、被害的な妄想を抱きやすい、という点に、ぼくの病気の残骸というか、

いや残骸ではない、笑いごとでもないのだが、(笑)とでも付けたくなるような、いまだ生き生きとしたぼくの微細関係妄想が、ぼくとしてはぼく自身の病気の本態だと思っている。

病識があまりない。幻聴が聞こえたことはない。たぶんにんげん関係の荒波と泥沼の中で、妄想を育みながら生きていくことが、危険人物たるこのぼくの、恥ずかしいでは済まされない『生き様』なのだろう。

縁あって、知的障がい者、身体障がい者、自閉症の方が日中通ってこられる、生活介護の施設に、アルバイトとして雇っていただき、この一年の間、欠勤も多く、辞めたいと思ったことも多かったけれど、ようやく安定してきた。妻の収入と合わせて、ギリギリなんとか生活出来るかもしれないというレベルで、週四日九時五時、時給1007円で働いている。

考えてみると、色々な職業に就いたけれど、履歴書の段階で正確にかつ正直に、自分の精神障害をオープンしたうえでの就労は初めてだったのだが、このやり方は雇用者と被雇用者双方にとって実りの多いものだったと思う。

この一年の間に、ぼくの精神障害に由来するものも含めて多くのトラブルが起きたが、就労移行支援所のスタッフの方の支援もあって、施設の上司との話し合いで、なんとか乗り越えてきた。その結果今、ぼくはたぶんとても働きやすい環境になっている。

今までは、自覚なく仕事の上で妄想にとらわれ、トラブルを起こし、辞めるという過程に至ることが多かった。ぼく自身、わがままなところもあるが、それに加えて病気による理不尽な部分もたぶんあったのだ。そこのところを職場の責任者と良く話し合い、双方の納得に結び付くことが出来て、仕事するうえでのぼくの苦しい感情は、ずいぶん減ったように思う。

ぼくは、精神障がい者として年金をもらってはいないから、妻の収入を合わせたとしても週四日のアルバイトで生計が成り立つのは運も作用していると思う。運だけではなく、税の面での控除や、コロナ下という事での支援、精神障害者手帳の恩恵や自立支援医療など、福祉的な様々な制度にも助けられている。

ぼくと妻と二人、なんとか自立した生活を営んでいる。それだけではなく、十五年前に拾い、その時は親に任せるしかなかった猫二匹の面倒もみていられる!!

統合失調症とは何だったのか?

ぼくは大学の時に発病して二階の窓から飛び降りた。その行動は異常だったと後から振り返っても分かるので、その後半年ほどは確か治療を受けた。けれどあるとき、薬を飲むことをやめ、治療にも通わなくなり、大学もやめた。半年家でぶらぶらしていた後、年末の郵便局のゆうメイト朝四時間のアルバイトに採用してもらったのが30歳の頃。それから就労支援A型も含め様々なところで働き、大阪の文学学校にも通った。そこで知り合った前妻に暴力を振るってしまったことが、自分の異常性に気づくきっかけになったかもしれない。

暴力の原因の一つは、妄想的な性質だったと思う。

仲間たちからも見放され、にんげん関係とそして仕事とがまったくうまくいかず、「なんなんだっこれは?!この生きづらさは?!」と絶望の叫びをあげた末に、北海道の根室の地で、縁あって医療につながることが出来た。38歳の時である。今年47歳になるから、医療に再びつながってから9年の歳月が流れた。

38歳のぼくを見ても、初見では、ぼくを異常だとは思わないかもしれない。この九年で何が変わったか。特に今の主治医と巡り会ってから、ぼくの、中身はだんだんと変わってきたはずだと思う。

社会に適応できるということが、こんなにも、心休まることだったとは。

いまでも、さびしいな、と思うことはある。なんだか人と足並みが違っていて、孤立したり孤独だったりすることが多い。仲間が欲しい。そのためにも、世界が変わればいいな、と思う。

ぼく自身も、勇気を出して人との境目を越えて対話が出来るスキルを身につけねばならないと思う。

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