第27話

文字数 639文字

去年の暮れに80万円で買った借地権付きの家の、玄関の場所に、たくさんの植物を置いている。

北向きの家なので、おける植物は日陰を好むもの。大きな桐の木が生えていたちいさな花壇では、桐の木を強引にのこぎりとなたで切り倒した後、レモンバームの種を蒔いたら、密林のようにうっそりとしたレモンバームの群生が出来た。それからアジサイや、母のところから持ってきたシダも置いている。パセリも、意外と大きくなっている。

それらの植物に対して、美しいという感情をさほど持てないことに気づいた。雑多に増やしただけなのだから当たり前なのかもしれないが、ただ単に草が生い茂っているようにしか見えないのである。

それにひきかえ、近所にこの真冬に、素晴らしい花で彩っている小さな家があって、鉢植えの植物はすべて花を咲かせているか、きれいな色付きの実を成らせているかで、色彩のセンスも、はかったかのように見事、こういう家を造りたいなと思わされたが、そのためにはどれだけ植物の知識があればいいのか見当もつかない。

路地に住む人々は、しばしば多くの植物をその玄関先に配置する。そうすることで確かに生活に色どりと潤いが生まれるように思う。金ばかりかけた豪勢な家やマンションが、ひどく無機質だったりするのとは対照的だ。もしもそこに、若干のセンスと気合と勉強とがあれば、その色どりは美と言えるものにまで昇華しうるのだ。けれどもそういうことは稀にしか起こらない。同時多発的にそう言う事が起きれば、その一帯は地元の名所になるだろう。
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