第65話

文字数 2,890文字


源三郎江戸日記65

8月も半ばになり吉良は本所松坂町に屋敷換えとなり、丸の内の呉服橋から移転することになったのですが、空き屋敷なので全面改修する事になり、上杉綱紀に無心して費用を全額、
上杉家が負担する事になったのです、上杉家筆頭家老の千坂兵部は度々の吉良の無心に閉口していたのですが、呉服橋は千代田のお城内なので警備も万全ですが、墨田川の向こうと、
なるとそうは行きません、

今回は赤穂浪士に備えなくてはならないので、多くの武者溜まりの部屋を作り付け人を送り込まなければならなかったのです、この時期に屋敷換えとは、ていよく丸の内から追い払、
い、赤穂浪士どもに好きに討ち取れと言うも同じだな、幕府は吉良様を見捨てるつもりか、上杉家から大人数を送り込み、警護に失敗して吉良様の首をとられたら、武門の恥として、
きついお咎めを受けるだろうと、

傍にいた馬回り役、頭の小林平八郎にどうしたもんだかと言うと、100人も送り込めば討ち取られる事は御座いませんが、いつ討ち入るか知れない敵に毎日備えるのは事実上不可能に、
御座います、またその費用も莫大にかかります、吉良様は花鳥風月を好み家来に腕の立つ者は一人としていませんと言うので、そこよ、討ち入るとすれば鎖帷子、篭手、すね宛等、
完全な防御体制で打ち込むだろう、

生身の人間など倍いてもていもなく討ち取られよう、打ち込むほうはその日のみ体につければ良いが、受け側はいつ打ち込まれるか知れないので毎日その格好をしなければならない、
そんな事は不可能と言う事だな、問題は世間で噂になっているように本当に大石が討ち入るかどうかだなと言うと、平八郎が草の者のはなしでは大石の元にはおよそ100人が連絡を、
取り合っているそうですと言うので、

それは浅野大学様でのお家再興を願い出ているので、それがかなったときに帰参したい者が沢山含まれているのだろう、それがかなわぬ時に残るのは半分位のはずだ、それでも50人、
はいる事になる、やはり100人は必要だな、それでも生身の人間だ討ち取られる事もある、吉良様が無骨者が屋敷に大勢いる事を嫌がっているとして、送り込む人数は20人程度として、
後は浪人を集め警護団を作るしかない、

全部で50人位でいいだろう、平八郎おまえに行ってもらうしかないが、討ち入られれば命はないと言うと、上杉家の為で御座います、喜んで命は捨てますると言うので、それだけの、
人数が警護にいても討ち取られたと言う事になれば、吉良家は断絶だが応援を出さなければ上杉家は出仕遠慮くらいで済むはずだ、応援を出して討ち取られたとなれば連座で改易と、
なる、

幸い上杉の上屋敷から松坂町までは準備をして押し出しても2時はかかる、討ち入るとすれば寝静まった夜明け前だろう、2時あれば総て終っているだろう応援はとうてい間に会わぬ、
そうなれば殿を留めて応援にはいかせないと言い、大学様を1万石でもいいので大名に取り立ててくれれば、大義名分がなくなり騒ぎも収まるのじあが、幕府は絶対に再興などさせ、
ないであろう、

片手落ちを認める事になるでな、梶川の奴余計な事をしてくれたものだ、そのまま吉良様を討ち取らせればよかった物をと言うので、梶川は赤穂の者共に討ち取られたよしに御座い、
ますと平八郎が言うと、本当に赤穂浪士か怪しいもんだ松の廊下の刃傷は仕組まれたのだろう、吉良様、浅野様はただの踊る人形で、筋書きを書いた黒幕がいると思うているのだが、
と千坂が言ったのです、

何のために御座いますかと平八郎が聞くと、幕閣の権力争いだろう迷惑な事だな、起こってしまった事を詮索しても仕方ない、これ以上吉良様に上杉家を、巻き込んで欲しくないのだ、
その内大石が江戸に、下ってくるだろう、明日から吉良家に家老として出向き、屋敷の改装、警護団の人集めの段取りにかかってくれ、吉良様に文句を言われたら、綱紀様の命令だと、
言うのだ、

わしから殿には言い聞かせておく、傍にいた草の者、かすみにお前は三好浅野家に戻っておられる匠の守様の奥方の元に行ってもらうぞ、江戸の蝋燭問屋金杉屋の娘として行儀見習い、
として上がるのじあ、奥方様のそばに仕えられるよう段取りしてある、赤穂浪士の出入りがあるはずじあ、何人出入りしているか、又その者達の名前を知らせよと言うと、かすみが、
承知しましたと返事したのです、

大石が江戸に下ったら必ず挨拶に行くはずじあ、何を話すか聞きもらさずわしに伝えるのじあと言ったのです、千坂が大石は昼行灯と言われていたそうだがと言うと、かすみが城に、
登城しても総ての政務は次席家老大野にまかせ、いるか、いないか分からない人だったそうですと言うので、なる程影の存在と言う事かというので、昼に行灯をつけても何も見えま、
せぬがと言うと、

なる程影以上と言う事だな、つまり、えたいの知れない者とも言える、一度会ってみたいものじあのうと言うと、平八郎がもう一人えたいの知れない人物がいますと言うので、それは、
誰じあと聞くと、日向高鍋藩藩士で村上源三郎と言う者に御座いますと言うと、その者が赤穂とどう係わり合いがあるのじあと聞くと、妻女が元赤穂藩江戸留守居役だそうです、堀内、
道場の目録持ちで、

柳沢様、稲葉様とも係わりがあるそうで、稲葉様の懐刀と言われている高木監物が街中で襲おうとしたらしいのですが、刀を抜くひまもなく捻られたそうで、その後近くの料理屋で、
何回か会っているそうです、ここには柳沢様も出入りしておりこの男に時々会いにくるそうです、歳は30才過ぎたところだと言う事ですと言うので、なる程、日向高鍋藩の下級武士、
が料理屋で密会しているのかと聞くと、

草の者が赤穂浪士の江戸急進派の頭である奥田孫太夫を監視していて、その男の存在が浮かびあがったそうです、赤穂へ行き大石とも会っているそうですと言うので、ただの舅と婿、
と言う関係だけではないと言う事か、幕閣の敵どうしの柳沢様と稲葉様とも接触しているとは一体何が目的なのだと聞くと、不思議なのは150石とりの高鍋藩士にもかかわらず深川、
の両替商、

若狭屋の根岸の寮に妻女と一緒に住んでおり、その寮に住んでいる女子と娘は母と妹と言う事で、高鍋藩士江戸留守居役村上源之丞のそばめだそうで、その子供と言う事だそうです、
そばめの子ですが正式な藩士なのに屋敷の外に済んでいるのはがてんがいきませんがと言うと、そ奴には兄がいるのかと聞くと、おります、こちらは屋敷内にすんでいるそうですと、
言うので、

日向高鍋藩はわずか3万石の大名じあ、そこの次男坊が150石取りに召抱えられていると言う事は、よほどの人物だと言うことだ、また屋敷内にすんでいないと言う事はおそらく藩主、
直属の隠し目付けの役目なのだろう、高鍋藩と赤穂藩の殿様が親しい仲だったとは聞いておらんが、父親が舅と同じ江戸留守居役だとすると、そのつながりで、赤穂浪士を影で助力、
しているのだろう、

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