第5話

文字数 2,765文字


源三郎江戸日記5

こんな時間にかと聞くと、頭領が絵図面を忘れなさったので深川まで取りに来たのでよと言うので、越後屋は長屋ももつているのかと聞くと、深川の八幡様の裏てにもありやす、新橋が、
二軒目ですよと言うので、さぞかし立派な長屋なんだろうと言うと、いいえ、普通の長屋で人助けだそうです、棚賃もすごく安くしてなさるそうですよと言うので、金が余っていると言、
う事かと聞くと、

それは江戸でも一二を争う大店で、多くの大名屋敷に出入りなさつていますからねと佐助が言ったのです、新橋で佐助と分かれて愛宕山したの佐野道場に入ると、門弟が出迎え源三郎様、
お久しぶりですというので、佐野先生はご在宅かと聞くと、道場で稽古をつけておられますと道場に案内したのです、佐野一之助が源三郎殿ではないかと言って、丁度良い門弟共に稽古、
をつけてくだされと言うので、

久方ぶりでござる上屋敷に帰る途中に立ち寄りました、しからば一手お相手いたしますと、刀を預けて木刀を握り、さあ何処からでもかかって来なさいというと、秋山伸介と申すといっ、
て一人の男が立ち上がり前に出たので源三郎が一礼して中段に構えると、伸介がえ~いと気合をいれて打ち込んできのでかわし、右肩に振り下ろしピタリと止めると、参ったというので、
お次の方と言うと、

次々と立ち上がったのですがていもなく転がされたのです、一之助がそれまでと声をかけたので木刀を仕舞うと、それではこちらへと奥に案内したのです、そこの井戸で体をお拭きなさ、
れと言うので、庭におり井戸水をくみ上げて体を拭き、さっぱりして奥座敷に行きすわると、さすがに堀内道場の目録持ちでござるな、我が門弟は手も足も出ませんなあと笑ったのです、

いやいや中々の腕の持ち主でござる、手加減などでき申さんと言うと、それだけの腕をもちながら次男坊の為に殿にお目見えがかなわぬとはと言うので、私は宮使いは向いておりませぬ、
今のままが気楽なのですよと言うと、ほんに欲のない御仁ですね、いっそ浪人ならいくらでも仕官の口はあるものをと言うので、兄に何かあった時の跡継ぎでござる、又秋月藩は小藩、
ゆえ、

次男坊を取り立てるほど余裕はありませぬと笑うと、天下泰平になり剣では中々仕官はかないませんと一之助が言ったのです、兄上に子が出来ればお役ごめんにあいなりますので、医師、
の道にでも進もうと思うております、先日町医者の緒方玄庵殿の南蛮医術を拝見して感激いたしました、南蛮では傷口はハリで縫うそうでございます、そうすれば傷口が早くふさがり、
早く直るのだそうです、

今までにない新しい医術ですというと、なるほど立派な暮らしの糧にござりますなと一之助が頷いたのです、それは障子があき一之助の息女妙がお茶をもって現れ、源三郎様おいでな、
されませと畳に手をついて挨拶して、粗茶にございますと差し出すので、これはお妙殿暫く見ないうちにお美しくなられましたなあと言うと、まあ、源三郎様は剣の腕ばかりではなく、
お口も上達されたのですねと言うので、

これはまいった、一本とられましたなと言ってそれでは馳走になりますとお茶を飲み、中々美味しいお茶にございますというと、一之助がせっかく来てくだされたのだ、笹の用意をと言、
うので、これから本宅に帰りますのでその議はご遠慮申し上げます、本宅の母上に見つかると小言が二倍になりますと断ると、そうですか、残念ならば帰りには又お寄りくだされ、その、
時にはなにとぞお相手をと言ったのです、

お妙殿も良い年頃にございますなあと言うと、我が家には妙しかおりませんので、いずれは婿をとりこの道場を継いでもらわなければならないのですが、妙に小さい頃から剣術を教えた、
のがたたり、今ではいっぱしの剣客にござる、門弟も妙を打ち負かす者がなく困っているのでござるよと言うので、そうですか、前にお相手した時はていもなくやられてしまいましたが、
それより腕があがったとなりますと、

おいそれと勝つ男はみつかりまんなと言うと、お妙が何を申されます、あの時は私が女子なのど手加減された事はわかっていますよ、源三郎様が女子に本気で立ち会うわけないですわ、
と言うので、それでは門弟の方もそうではと言うと、一之助がそうではござらんよと言って、そうか、源一郎殿に子ができたら、妙の婿になり道場を継いでいただけないですかなと言、
うので、

こんな中途半端なそれがしでは、お妙殿がいやがりますよと言うと、妙がそんな事はありませんよ、但し婿になってくださるのなら、他の女子とはきっぱり縁を切ってくださりませと、
言うので、他に女子はおりませんよと言うと、そうですか、深川でお勝つとか言う芸者と街角で立ち話をして、お峰殿に叱られたそうではないですかと言うので、何処でそんな話しを、
聞いたのですかと言うと、

当家の女中が深川で見かけたそうです、それを見たお峰殿は足早にその場を立ち去ったそうではないですか、源三郎様はあわてて後を追いかけたのでしょうと笑うので、なんとここの、
女中に見られていたのですか、しかしお勝つとはなんでもないんですよ、深川の芸者で知り合い程度なんですというと、そうですか、まあ、そういう事にしておいて差し上げます、
それではごゆっくりと言うと部屋を出て行ったのです、

一之助が芸者と立ち話くらいいいではないか、ほんに女と言うものは口やかましいでござるなと言うので、まいりましたと笑うと、お峰殿といえばそなたの父上の盟友奥田孫太夫のご、
息女ですな、その方と縁談でもと聞くので、いいえ、何もありませんよ、たまたま孫太夫殿が我が家に連れてこられたので、深川八幡に案内した帰りの出来事ですというと、そうです、
か、女中の松も余計な事を妙の耳にいれるもんだと笑ったのです、

それではそろそろ行きますというと、又立ち寄りくださいと玄関まで送って来たので、礼を言って道場を出て愛宕山をこえて麻生の上屋敷にはいり、本宅に顔を出すと、源一郎の妻女、
が源三郎殿おかえりなされませと言うので、母上はと聞くとお茶の稽古でお留守にございますというので、良かった暫くは小言、言われなくてといいかと言うと、お父上はお戻りです、
よと言うので、

早いお帰りだなと言って父上の部屋に行き挨拶すると、おう、源三郎帰ってきたか、お前に用事があり今呼びに行かせようとしていたところだと言うので、何か急用ですかと聞くと、
知ってのとおり、殿が参勤交代で明後日日向におたちになり、源一郎もお供することになっているが、その道中に不穏な動きがあるとの草の者の知らせなのだと言うので、殿の行列、
を誰かが襲うというのですかと聞くと、

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