第166話 豪快な美容師さん

文字数 718文字

 その美容院には30年近く通っている。ひとりで経営している小さな店だ。
 はじめて行ったとき、
「ダイアナ妃のようにしてください」
と言って切り抜きを渡したら、写真を見て、私を見て言った。
「髪質が違いますからねえ」

 それでも、久しぶりのパーマをかけて、かかりにくくて時間をかけて、最後に鏡で見せてくれた後ろの仕上がりも良い感じで満足。

 以後、ずっと通っている。
 その頃、海外ドラマの『24』を観ていて話が合った。盛り上がると手が止まる。面白〜い人。
 スポーツが好きで、私はフィギュアスケートくらいしか話が合わなかったが、詳しかった。
 本も読んでいて、店の端に文庫本が積み上げてあった。面白いと貸してくれた。いちばん面白かったのは、
『葉桜の季節に君を想うということ』

 店の前には私が持ってきた大きなプランターの寄せ植えがふたつある。黒い小さなポット植えのコニファーがクリスマスツリーのように大きくなった。
 店の中には多肉の寄せ植えがある。家のベランダでは育たなかったのに、東向きのガラス越しの日差しが合うのか、増えて盛り上がり垂れ下がり見事だ。
 
 彼女は体格が良く、サーファーだった。ずっと独身でいるのかと思ったら、バツ2の男と結婚した。
 豪快で、固定客が付いている。
 皆、言うのは、嫁の悪口、子どもの自慢、旦那の愚痴、だそうだ。
 それも、30年も経つと、認知が入ってくる。同じことを何度も言われ、何度も話を合わす。そのうち来なくなるのだそうだ。
 時々若い男性も来る。
 彼女の相談とかをされるらしい。まるで、カウンセラー。

 私は、良い感じで、お願いしますと、もうお任せ。
 話すのが楽しい。
 自作にも登場させた。


【お題】 良い感じでお願いします
 
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