第81話 あんぱんで?

文字数 840文字

 半世紀近く前、就職した会社の研修で親しくなった女性。母親を癌で亡くしていたので、父親と弟と住んでいた。家のことはおとうさんがやっていたので、家事のために早く帰ることもなかった。
 話題が合った。文学も音楽も知識が豊富。クイーンもクラシックも彼女の影響で聴くようになった。
 私はいつでも痩せたかったが、彼女は太りたがっていた。胃下垂なのか、食べても太らなかったので羨ましかった。
 お金の使い方も違った。当時は給料もボーナスも若い娘にしては多かったはず……私は7年の間に相当貯め込んだが彼女はいつもお金がなかった。CDなど、買い方が違っていた。
 太りたいから体質改善とか、断食道場(?)とかにも入ったりして、高額を払ったのではないか?
 
 私の結婚式で、夫の友人と出会い一目惚れされた。しばらく付き合ったが、おとうさんに反対された。腕のあるコックだったが、水商売だと言われ反対された。友人もそこまでの気持ちはなかったのだろう。やがて別れた。

 数年して電話がきた。
「あの人、どうしているかしら?」
 まだひとりなら、お付き合いしようかと思って……
 あなたが振った男は結婚しました。しばらく未練タラタラだったけど。
 

 久しぶりに会った友人は、本社から営業所に移っていた。営業所の男の所長(妻子持ち)が優しくて……と話す。
 朝、彼女の机の上にパンが置いてある。袋入りのあんぱんやクリームパン。
 彼女は朝食抜きで出勤。外勤さんが出払ってから食べられる気楽な営業所。妻子持ちの所長も朝食抜きか? 奥さんはなにやってる?
 でも、やめなよ、妻子持ちなんて……あんぱんで惹かれるなんて。

 それからしばらくして会ったときには、妻子持ちの所長は異動になっていた。あろうことか、彼女は所長にお金を貸していた。集金できなかった金を月内に立て替えたりした時に、頼まれたと言う。
 返すので、また貸した。結局は泣き寝入り。
 後悔していた。
 
 あれから何年経つだろう? 定年退職しただろうか? 退職金はいいんだろうな。
 
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