第29話 生涯独身

文字数 730文字

「ここは私に払わせて」
 なんて、たまには言ってみなよ、とずーっと思っていたそうだ。
 見栄っ張りな旦那様は、兄弟が集まると全部払う。
 そういう人がいるのだ。奥様は大変だ。


 こちらは奥様はいなかった。生涯独身。
 かっこいい男。
 初めて好きになった、憧れの俳優。夏木陽介。『青春とはなんだ』『太陽野郎』等の青春スター。


『Gメン'75』の出演交渉で、プロデューサーの近藤照男から、
「次の作品がまた失敗に終われば、プロデューサーの地位を失うかもしれない、力を貸して欲しい」
と言われ『Gメン'75』に出演した夏木陽介。

 ニューカレドニアでのロケの際に、プロデューサーの近藤と中華を食べに行き、夏木が先に支払いを済ませた。
 しかし近藤はプロデューサーという立場の自分が支払いを、と考えていたため口論となり、夏木が、
「怒られる理由がない、降板する」
と言い降板となった。
 近藤からは降板回のエピソードを作らせて欲しいと打診されたが、夏木がこれを固辞したため、突如番組から姿を消すこととなった。
 夏木は『Gメン'75』は、
「自分にとって大切な作品であったので、もしそのようなことが起きなければ、その後も長く出演していたであろう」
としている。

ーーーー

『Gメン'75』同窓会番組で丹波哲郎が、
「夏木の喧嘩っ早さは危ない。ヨーロッパロケの時に、見学してた群衆の中にチャチャを入れる奴が居てNGが続いた。
 夏木が今度やったら俺がブン殴ってやる、と言い茶化した奴の首っ玉捕まえて引きずり回していた」
と語っている。

 結婚歴はなく、生涯独身の人生を送ったまま死去した。生前のインタビューでは、一人身だから仕事を選ぶことができ、不本意な仕事はやらなかったと述べている。


【お題】 ここは私に払わせて
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み