第127話 母と娘

文字数 1,014文字

 うちの娘は小さくてかわいかった。兄にもかわいがられ男子にも持てた。 
 高校時代は自転車通学。往復2時間はいい運動だ。背も伸びスタイルも見惚れる。
 紳士服店で働けばスーツが似合う。スカートから出た足は母が見ても惚れ惚れ。

 ところが、選んだ彼氏は100キロ超え。学生時代は柔道部。食べることが大好きで、食べる量も半端ではない。
 ふたりで食べ歩いて、娘の体重も右肩あがり。その彼と結婚し、子どもが生まれたあとはますます増えて、ついについに⚪︎十キロ超え。
 痩せろと言うのも諦めた。健康ならいいけどね。
 実家に来れば座りっぱなし。食べ続ける。もういいだろうと皿を下げれば、
「まだ食べるよ〜」
 キンメの目玉まで食べる。
 痩せなきゃ、痩せる、と言いながら無限に太り続けるのか?

 ところがついに一大決心。タンパク質を摂らなきゃ、と食事に気を使いだした。どこで聞いてきたのやら? 

 今度は洗脳でもされたみたいに母にも教える。
「日本人て、腐らないんだって」
 防腐剤を食べているから。
 やたら添加物を気にし出した。
 ひしお麹という、米麹より体にいい発酵食品を鶏胸肉に漬け込み茹でる。
 そうね、筋肉には鶏胸肉ね。
 昼もひとりだけど、きちんと作って食べている。食べる量は増えたのに、すんなり5キロ落ちたのだとか。

 母も真似して作ってみた。ひしお麹。豆と麦の麹。売ってないからネットで注文。昆布と醤油を混ぜて1週間。
 それを少し入れれば料理に深みが出る。
 
 母は胃が弱くなった。
 度を越すと、夜中地獄を見る。
 揚げ物は娘が来る時だけ。唐揚げを1キロ。
 辛〜いラーメンも無理。おいしかったなあ。鼻をすすりながら(NG)、ティッシュにお世話になりながら食べた。 
 アイスも食べなくなった。冷えたら……ボーコー⚪︎⚪︎になりそう。夏でも冷たい麦茶は少しだけ。すぐホットに変える。

 だから、旅行の時はつまらない。
 パーキングに寄っても、おいしそうなものを見るだけ。食事以外はほとんど無理。
 山寺に行った時は、昼に板蕎麦を注文したら超でかい盛り。店のおばちゃんが愛想のいい人で、残しちゃ悪いと思い、夫も私も必死で食べた。
 その日は旅館で豪華な夕食だったのに、おなかが空かなかった。それからしばらく蕎麦は見るのも嫌になった。

 旅行の本を見れば、食べたいものはたくさんある。
 旅行のときだけは、胃が大きくなって丈夫になってくれないかしら? 名物片端からいただきます。
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