第4話 息子の結婚
文字数 1,970文字
長女が結婚した年の暮れに、ひとり暮らしの息子が、話があるから、と久々に実家に来て私に告げた。息子とは近くに住んでいながら滅多に会わなかった。用があって来ても玄関先。
釣りが趣味だった金のない息子は結婚しないと言っていたが、子供ができた、と。彼女がいることは聞いていた。会わせてもらったことはなかったが。
「もう、釣り行けなくなる。ああ、釣り行けなくなる」
親は喜んだ。
息子は仕事が忙しい時期で、なかなか彼女に会わせてくれなかった。焦るのは親の方だ。
結婚式は? やらない? そんな金ない? そんな……
彼女の親御さんに早く挨拶に行かねば……
待ちきれず、息子に電話して彼女に代わってもらい、女ふたりで会う段取りを決めた。
近くに住む息子の部屋は大家さんの2階。その下で待ち、我が狭いマンションまで歩いた。印象は……普通だった。息子の彼女。どんな彼女でも驚くまい、顔に出すまい、と心して会った。派手でも(娘たちで慣れてはいるが)、学歴、家庭……
「玄関入ったらすぐベランダだから」
狭いけど驚かないでね……
彼女は……3時間いた。
面白かった。初対面なのに媚びず、甘えず、次から次に話題が出た。
我が息子は高校も母親の執念で、なんとか卒業させたくらい勉強しなかった。就職も決まらず自分で広告を見て探してきた。運送、引越し業だ。忙しい合間に釣りに行く。
話してしばらくして……え? 大卒なの?
うちの身内に大卒は存在しない。まあ、大卒と言ってもピンからキリ……のピンの方?
親も妹ふたりも親戚も皆大卒だそうな。母方の祖父母は小学校の先生だった。うちのバカ息子とでは釣り合いが取れない。そんなことを言うと、
「彼のが頭いいです」
……雑学は、確かにすごいけどね。
おとうさんは○航空。キャンセル待ちをすれば無料で乗れたとか。だから、海外旅行は豊富だ。ひとりで行った。ニューヨーク、タイ。ハワイにはおばさんが。我が息子は日本から出たことはない。
自宅は父方の両親の家を建て替えて住んでいる。その時に息子は引っ越しの仕事で彼女の家族に会っていた。
よく反対されないものだ。妊娠を告げたら両親は喜んだ、とか。
帰りにお歳暮でいただいてたビールやリンゴを持たせた。妊娠初期だし、今度、届けると言うと、大丈夫です、と喜んで持って帰った。
顔合わせは店でしようと思っていた。男親が設定するものだろう? しかし皆で家に来て欲しいと。
服は軽装で、どうか何も持ってこないで、おかあさんの手作りの料理一品だけで……そういうのは余計に困るんですが。
私はケーキまで作る料理上手ということになっていた。我が家に息子と彼女が初めて来た時、娘たちとのクリスマス、正月……続いたおもてなしに私は必死で作った。ミートローフやローストビーフ、チーズフォンデュー、鍋その他、シフォンケーキにロールケーキ、チョコを削って、(鰹節削り器はチョコレート削り器になっている)ひたすら削りクリームに混ぜたり上にかけたり。
奮発した肉でローストビーフを焼き、ホースラディッシュも買い、ケーキは栗原はるみさんのレシピのチョコレートケーキを2種。ホワイトチョコの方はアレンジだ。
バスに電車にバスに電車に歩き。家族全員で出向いた。家族全員で車以外の外出なんて初めてのことだ。バスの中で、長女は頭痛の気配を感じ、鎮痛剤を飲んだ。よくあることだ。
1時間半かけてたどり着いたのは、閑静な住宅街の素敵なお宅。旦那さんが、ある雑誌を見て気に入ってしまったという建築家、その建築家が建てた青森ヒバの家。暖炉のあるお宅だ。
家族は歓迎してくれた。ご主人は初めて会ったうちの娘の名を読んだ。○○ちゃん、△△ちゃん、と。総勢11人が悠々座れる、これも青森ヒバで作ったという大きなテーブル。
ハワイに住んでいた、おかあさんのおばさんが、私に言った。
「どうすれば、そんなにスマートでいられるんですか?」
当時はブティックに勤めていた。服も垢抜けていたはずだ。いい歳をした女がロングブーツ。コートは超よそゆきの白の1番高いやつ。これは長女の旦那の親との顔合わせの時も着て行った。その時も言わせた。
「ママ(のコート)素敵ねえ」
顔合わせ会は和やかに進んだ。豪華な料理の中に持参したローストビーフが超厚切りで出た。皆酒好きだ。持参したのは新潟の大吟醸のブルーボトル。
飲んだ、飲んだ。私と彼女以外は。長女も飲んだ。頭痛が治った長女は……
この娘は酒癖が悪い。今の旦那に、よく捨てられなかったな、と思うくらい。よく送られて帰ってきた。謝ると、
「かわいいもんですよ」
その娘が、あら、大変。酔っぱらって、ぺらぺら喋り、泣き、笑い、夫に怒られ皆に呆れられ、トイレに行った。
鎮痛剤に酒は危険だ。恥を晒すだけで済んだが。
釣りが趣味だった金のない息子は結婚しないと言っていたが、子供ができた、と。彼女がいることは聞いていた。会わせてもらったことはなかったが。
「もう、釣り行けなくなる。ああ、釣り行けなくなる」
親は喜んだ。
息子は仕事が忙しい時期で、なかなか彼女に会わせてくれなかった。焦るのは親の方だ。
結婚式は? やらない? そんな金ない? そんな……
彼女の親御さんに早く挨拶に行かねば……
待ちきれず、息子に電話して彼女に代わってもらい、女ふたりで会う段取りを決めた。
近くに住む息子の部屋は大家さんの2階。その下で待ち、我が狭いマンションまで歩いた。印象は……普通だった。息子の彼女。どんな彼女でも驚くまい、顔に出すまい、と心して会った。派手でも(娘たちで慣れてはいるが)、学歴、家庭……
「玄関入ったらすぐベランダだから」
狭いけど驚かないでね……
彼女は……3時間いた。
面白かった。初対面なのに媚びず、甘えず、次から次に話題が出た。
我が息子は高校も母親の執念で、なんとか卒業させたくらい勉強しなかった。就職も決まらず自分で広告を見て探してきた。運送、引越し業だ。忙しい合間に釣りに行く。
話してしばらくして……え? 大卒なの?
うちの身内に大卒は存在しない。まあ、大卒と言ってもピンからキリ……のピンの方?
親も妹ふたりも親戚も皆大卒だそうな。母方の祖父母は小学校の先生だった。うちのバカ息子とでは釣り合いが取れない。そんなことを言うと、
「彼のが頭いいです」
……雑学は、確かにすごいけどね。
おとうさんは○航空。キャンセル待ちをすれば無料で乗れたとか。だから、海外旅行は豊富だ。ひとりで行った。ニューヨーク、タイ。ハワイにはおばさんが。我が息子は日本から出たことはない。
自宅は父方の両親の家を建て替えて住んでいる。その時に息子は引っ越しの仕事で彼女の家族に会っていた。
よく反対されないものだ。妊娠を告げたら両親は喜んだ、とか。
帰りにお歳暮でいただいてたビールやリンゴを持たせた。妊娠初期だし、今度、届けると言うと、大丈夫です、と喜んで持って帰った。
顔合わせは店でしようと思っていた。男親が設定するものだろう? しかし皆で家に来て欲しいと。
服は軽装で、どうか何も持ってこないで、おかあさんの手作りの料理一品だけで……そういうのは余計に困るんですが。
私はケーキまで作る料理上手ということになっていた。我が家に息子と彼女が初めて来た時、娘たちとのクリスマス、正月……続いたおもてなしに私は必死で作った。ミートローフやローストビーフ、チーズフォンデュー、鍋その他、シフォンケーキにロールケーキ、チョコを削って、(鰹節削り器はチョコレート削り器になっている)ひたすら削りクリームに混ぜたり上にかけたり。
奮発した肉でローストビーフを焼き、ホースラディッシュも買い、ケーキは栗原はるみさんのレシピのチョコレートケーキを2種。ホワイトチョコの方はアレンジだ。
バスに電車にバスに電車に歩き。家族全員で出向いた。家族全員で車以外の外出なんて初めてのことだ。バスの中で、長女は頭痛の気配を感じ、鎮痛剤を飲んだ。よくあることだ。
1時間半かけてたどり着いたのは、閑静な住宅街の素敵なお宅。旦那さんが、ある雑誌を見て気に入ってしまったという建築家、その建築家が建てた青森ヒバの家。暖炉のあるお宅だ。
家族は歓迎してくれた。ご主人は初めて会ったうちの娘の名を読んだ。○○ちゃん、△△ちゃん、と。総勢11人が悠々座れる、これも青森ヒバで作ったという大きなテーブル。
ハワイに住んでいた、おかあさんのおばさんが、私に言った。
「どうすれば、そんなにスマートでいられるんですか?」
当時はブティックに勤めていた。服も垢抜けていたはずだ。いい歳をした女がロングブーツ。コートは超よそゆきの白の1番高いやつ。これは長女の旦那の親との顔合わせの時も着て行った。その時も言わせた。
「ママ(のコート)素敵ねえ」
顔合わせ会は和やかに進んだ。豪華な料理の中に持参したローストビーフが超厚切りで出た。皆酒好きだ。持参したのは新潟の大吟醸のブルーボトル。
飲んだ、飲んだ。私と彼女以外は。長女も飲んだ。頭痛が治った長女は……
この娘は酒癖が悪い。今の旦那に、よく捨てられなかったな、と思うくらい。よく送られて帰ってきた。謝ると、
「かわいいもんですよ」
その娘が、あら、大変。酔っぱらって、ぺらぺら喋り、泣き、笑い、夫に怒られ皆に呆れられ、トイレに行った。
鎮痛剤に酒は危険だ。恥を晒すだけで済んだが。
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