第99話 辞められない

文字数 602文字

 この仕事は向いてない、といつも思うけれど、辞める勇気もエネルギーもない。 
 辞めます、と言えない。

 だから、ブティックは接客苦手なのに14年。倒産するまでいたの。
 そのあとの介護施設も、もう8年。安い時給と文句を言いながら、まあ、いいか、と。

 でも、去年は職場の雰囲気が悪くて……あの人が早番の日は行きたくなかった。
 なんだか、態度がひどくて、
「私、なにかしました?」
と、よほど聞いてやろうかと思った。

 もしかしたら、介護エッセイで、仮名だけど悪口書いているのを読んでたりして……
 まさか……ね?
 
 それでも辞めるエネルギーがないから、ダラダラ我慢して、そのうち、あの人の態度も普通になった。

 この仕事、向いてないのはあの人のほうだよ。気分にムラがあるし、好き嫌いが激しいし、入居者さんに優しくない。
 たとえば、入居者さんが、
「帰りたいよ〜。帰れるかしら?」
と聞けば、
「帰んなっ! 帰っていいよっ!」
だもんね。
 そんな言い方、ないでしょ? 言えないけど。
 でも、
「帰れないよ〜」
「じゃあ、いなさいっ!」
と、漫才みたい。
 この会話、毎回やっている。

 朝は、早く来て時間前から働いてる。
 腰痛で整形通ってる。
 モクレンさんが意識失った時の対応は素早かった。
 
 100歳のカリンさんが亡くなったときには、形見に膝掛けもらっていったし……

 ゴタゴタして、異動しちゃったけど、ホントはこの仕事に向いているのかな?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み