第32話 その匂いは

文字数 340文字

 隣の家に不幸があった。奥様が亡くなった。ずっと入院していた。
 ご遺体が戻ったのだろう。
 親戚が出入りしていた。奥様の姉妹だろう。こちらは会釈してきたので、少し話した。通夜は明日。線香くらいと思ったが、やめておいた。
 
 ご主人は忙しいだろう。食事はどうするのだろう? などといらぬ心配をしていたら、いい匂いがしてきた。
 さっきのお姉さんが、ありあわせの材料で作っているのだろう。
 しかし、それは、その匂いは?

 不幸があったのにカレーとは。手っ取り早いが。ちょっと違和感。

 やがて、大声が聞こえた。
「ねえさん、なにやってるんですか?」
「カレーがあったから」
「もう、いいですから、やめてください」

 弔問客はカレーの匂いの中、悲しみに浸っていた。


【お題】 隣の家から漂うおいしそうな匂い
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