第108話 痩せたのに

文字数 878文字

 若いとき、片思いのKと映画を観に行った。
 私はOLになりたて。Kは大学生。
 私は雑誌に載っていたオシャレなワンピースにバッグも靴も高かったのに、Kはジーンズにパーカー。変な大きなバッグ。

 観たのは『桜の森の満開の下』
 前に会った時に、話してくれた。
「桜の樹の下には死体が埋まっているんだ」
  
 Kは映画がなにより好きで週に何本も観に行っていた。本もたくさん読んでいた。


 ある春の日、山賊が旅人を襲って殺し、連れの美女を女房にした。亭主を殺された女は、山賊を怖れもせずにあれこれ指図をした。女は山賊に、家に住まわせていた7人の女房を次々に殺させた。
 わがままな女はやがて都を恋しがり、山賊は女とともに山を出て都に移った。

 都で女がしたことは、山賊が狩ってくる生首をならべて遊ぶ「首遊び」だった。
 その目をえぐったりする残酷な女は次々と新しい首を持ってくるように命じるが、さすがの山賊もキリがない行為に嫌気がさした。
 山賊は都暮らしにも馴染めず、山に帰ると決めた。女も執着していた首をあきらめ、山賊と一緒に戻ることにした。

 山賊は女を背負って山に戻ると、桜の森は満開だった。
 風の吹く中、山賊が振り返ると、女は醜い鬼に変化していた。全身が紫色の顔の大きな老婆の鬼は山賊の首を絞めてきた。山賊は必死で鬼を振り払い、鬼の首を締め上げた。

 我にかえると、元の通りの女が桜の花びらにまみれて死んでいた。山賊は桜吹雪の中、声を上げて泣いた。
 山賊が死んだ女に触れようとするが、女はいつのまにか、ただの花びらだけになっていた。そして花びらを掻き分けようとする山賊自身の手も身体も、延した時にはもはや消えていた。
 あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりだった。(Wikipediaより)

 
 観終わると日が暮れていた。
 食事して少し酒を飲んだ。Kが払ってくれた。
 歩けば桜の森公園。

 酔った私はラストシーンを真似てみたくなった。
 Kが私を背負った。

 ーーか・え・り・た・く・ないなあ……

 けれども、振り向いてKが言った。
「60キロある?」



【お題】 夜桜とパーカー
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み