第61話 犬猿の仲

文字数 964文字

 高齢者施設の職員はよく変わる。
 私が勤めて早や8年。オープン当初から働いている者は少ない。
 入居者と職員、どちらの入れ替わりが、より多いだろう?
 入居者は転院等もあるがほとんどが亡くなられた。

 何人もの職員を見てきた。最初の頃は若い女性が多かった。男性職員が喜ぶくらい、レベルが高い……のだそうだ。
 私はすでに、女性として見られてはいない。入居者の年齢のほうに近いばあさん……

 レベルの高い女性がふたり。男性職員はウキウキしていた。
 ひとりはリーダーで仕事は丁寧だが、遅い。とてつもなく遅い。 
 もうひとりは、速い。この職員だとパートの私は楽だ。私の仕事、取らないでください、というくらい手際がいい。あとで聞いたところによると、雑なのだそうだが。

 このふたりは犬猿の仲。
 あらっ? 犬猫ではなかった。

 リーダーは真面目な独身。Aさんは大雑把なバツイチ(自分で吹聴していた)。

 新人の歓迎会にAさんは、なんと彼氏を連れてきた。彼氏が新しい職場が心配なのだと。
 ばあさんは、ぶったまげた。

 Aさんはユニットにも彼氏を連れてきた。入居者に彼氏を紹介し、スタッフルームにも入れた。皆あぜん、としていたらしい。
 ばあさんはいなかった。あとで聞いた。

 それから、猫を連れてきた。猫のご出勤〜。
 Aさんが猫を買ったのは聞いていた。高かったらしい。3年だか4年のローン。
 そして、その猫を見せにきた。入居者の何人かは喜んだようだ。見たいと言われ連れてきたのかもしれない。
 施設長に了解を得ていたのかはわからないが。
 昼食どきで衛生上よろしくない、とリーダーに言われたのだろう。
 ばあさんはいなかった。
 
 それから、仕事ではことごとくうまくいかないようだった。
 Aさんは、入浴介助のあと、暑いからポロシャツのボタンをひとつしか止めていなかった。
 それをリーダーはすぐに注意する。
 Aさんは、ばあさんに愚痴った。
 何から何まで互いに気に入らなくなる。

 ある日、Aさんは、ラインのタイムラインでやらかしてしまった。

「私、あの人嫌い。あの人がいるから仕事行きたくない」

 怒りに任せて、送信するつもりはあったのか、間違ったのかはわからないが、大勢が見てしまった。ばあさんも見た。

 すぐ削除されたが、しばらくして、Aさんは他のユニットに異動していった。
 
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