第31話 わかれたわけ

文字数 590文字

 仕事から帰り、隣の部屋の前を通る。まだ5時前なのにいい匂いがする。夕飯は肉じゃがか?
 ああ、俺も食べたい。食べたかった。
 妻の手料理というものを。

 四つ年下の女と結婚した。彼女は高校を卒業したばかりだった。
 妊娠させたから責任を取った。まだ子どものような母親だったから、自分も育児休暇を取って協力した。
 育児は大変だから自分が食事の支度をした。
 娘はかわいかった。自分に似て。 

 仕事に戻ったが、妻はなにもできなかった。夜勤から疲れて戻っても菓子パンとカップラーメン。早番の朝は起きてこない。職場で菓子パンを食べた。

 早番の時は自分が作った。料理を教えたが、妻は作る気がない。せめて遅番の時くらい作って欲しいと頼んだが、だめだった。

 何度も喧嘩した。
 妻の家はずっと単身赴任で女ばかりの3人姉妹。義母も料理をしなかったから、そんなものだと思って育ったという。
 
 仕事で疲れ、別れを口にした。
 それでも妻は変わらなかった。
 娘がかわいかったから悩んだ。
 悩んだが別れた。
 妻は娘を連れてサッサと実家に帰った。

 コンビニで買ってきた弁当を温め、洗濯機を回す。
 別れる前と変わらない食生活だな。
 ああ、妻は洗濯だけはやっていたな。

 明日は雨か。
 明日は娘の七五三。7歳のお祝いだ。
 せめて、大きな傘を用意しよう。それくらいしかできることはない。


【お題】 隣の家から漂うおいしそうな匂い
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