第33話 隔世

文字数 538文字

 息子の笑い声が懐かしい。聞いたことがある。 

 息子の顔は私に似ているらしい。お嫁が初めて会ったとき、そう思った、と。
 目とか鼻とかではなく、頬や額……娘たちには言われない。初対面だと感じるらしい。そっくり……と。

 歳を重ねるほどに息子は似てくるのだ。私の父に。ちょっと、いやだな。
 笑い方や話し方が、なぜ似てくるの? 一緒に暮らしていたわけでもないのに。

 父には晩年面倒をかけられたから、思い出したくないの。あんな酔っ払い。
 母に先立たれ、あなたが生まれても悲しみを癒すことはできなかった。酒に逃げ、娘ふたりにどれだけ面倒をかけてくれたことか。

 ひとり暮らしになった父は、朝まで酒を飲み、仕事もなくした。
 酒だけ飲んで栄養失調。
 私は幼い子をおんぶに抱っこで大変だった。
 早く死んでくれ! と何度も思った。
 しぶとかったけどね。

 でも、似ているのは声だけでよかった。
 息子は酒もほどほどだし、家族思い。働き者。

 あら、父もそうだった。母が生きている間は。 
 私もこの頃、封印していた父のことを書いたりしている。キャラクターを登場させたりしている。

 昨日も夢に出てきたのよね。
 また、娘の私に怒られていた。

 父は幸せだった。なにが幸せだったかって……優しい娘がいたことよ。
 
 
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