第102話 優しい妻

文字数 610文字

 ひと昔前、いなかでは脳卒中は当たり前だった。
「ちゅぶたかる」という。
 あそこのじいさん、ちゅぶたかった……
 ンダンダ……
 みたいな……

 じいさんの面倒見たのは、かあさん。それが嫁のつとめだった。
 そのかあさんも脳梗塞。
 早かったな。親孝行もしなかったな。

 我が家の目玉焼きはコショウだけ。
 健康のために、なにもかもが、優しい味付け。ボケた味。

 健康のためだとわかっているが、ときどき食べたくなる。
 沢庵、キムチ、塩辛、インスタントラーメン……
 買うときには塩分を確かめる。 

 しかし、薄味に慣れるとなにもかもが塩辛く感じる。出前も外食も減った。
 自分で料理するようになり、塩6グラムが、どの程度なのかわかる。

 制限してるのに、こんなに塩分控えているのに数値が良くならないのはなぜだ?
(インスタントラーメン、作って食べたことも忘れている)

 美容師さんの旦那さん、糖尿だって。長距離の運転手。何日も家を留守にする。
 優しい味付けとは無縁の生活。
 コーラを毎日飲んだ。大量のコーラを。

 糖尿で足切断と脅かされて、ようやくやめた。コーラはやめた。山ほどの、キャベツ食るららららべる
 大変だよね、1日おきの病院の送り迎え。
 健康で長生きしたい?
 好きなもの食べて、さっさと死にたい?

 中途半端はやめてね!
 寝たきりで長生きするの。
 ああ、寝たきりなら、介護は楽か。
 でも、施設に入れるお金なんてないわよ。


【お題】 優しい味付け
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み