第58話 元日早々

文字数 757文字

 ひどいじゃないですか。

 地震が起きるというのは当たり前なこと。
 いつ、どこに、なにが起きてもおかしくないのはわかっているけど。
 なにも元日に。

 何十年も前の正月早々の青酸コーラ殺人を思い出してしまった。
 あれから世は荒み、もはやどんな残虐な事件が起きても動じない鈍感力を身につけた。

 夜が明けたら被害はどうなっているだろう?
 被災地に住む方には、なんて無情なこと。

 いつかは自分の身にも降りかかる。そのときはもっと凄まじい地獄絵かも。
 自分はそこまで生きないかもしれないが、子どもや孫は経験するだろう。


 母が東京大空襲で逃げた話をしていた。そんなことも将来絶対ない! と言えるだろうか?

『どんな時も慌てるなーーーー状況に惑わされずに常に冷静であれ』

 あるファンタジー小説から。
 戦う場面が多い。何気なく読んで通り過ぎてまた戻った。誰かと戦うわけではないが……

 戦う相手は自分自身。歳を取り……老いていく……歳を重ね、動きが緩慢になっていく自分自身。
 
 慌てるな、と夫は言う。
 オレになにかあっても慌てるな!

 慌てたのは母が50歳で急死した時。
 夫の両親が続けて亡くなった時。
 娘が食器棚に頭を突っ込んだ時。
 娘が心臓の手術をした時。
 犬を看取った時。
 父は認知症で長かったので、慌てることはなかった。夜中の電話に慌てることはなかった。

 なるべく起きませんように。地震も事故も事件も病気も……

 大震災の時は(震度5強)、店で割れたガラスなんか掃いてて、店長に怒られた。
「なにやってんのよ!」
 頭に売り物のセーター被せられて非難した。

 状況に惑わされずに常に冷静であれ!

 地震や災害は怖いけど、起こったらどうする?
 身を守り、私は行かなければ。
 なにかあれば、すぐ近くの施設に駆けつけなければ。入居者を助けなければ!
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