第43話 ない、ない、趣味がない

文字数 779文字

 6年前は60歳を過ぎていたが現役だった。通勤に往復2時間。週に5日、残業もした。
 毎日晩酌をし、運動はゴルフだけ。趣味もゴルフだけ。趣味といえるほど練習もラウンドもしないが。
 家のことは妻に任せた。子どものことも孫のことも、自分の兄弟の中元歳暮、お礼の電話まで。
 仕事中心、仕事を取ったらなにもない。

 はい、まさになにもない。
 6年後、退職したら1日中テレビを付け、酒を飲める時間を待っている。
 働いたら? と言ったら大喧嘩になり、家庭内別居を十日ほど。
 夫は子どもが暮らしていた北の部屋で生活した。テレビはない。窓用エアコンはちっとも暖かくない。足元が寒い。
 私がそっちに行くって言ったんだけどね。
 私は南向きの暖かい部屋で、自由にやっていた。
 夫など、いないほうがいいのだ。別居する余裕はないから、家庭内別居。ずっとでもかまわない。
 贅沢しないから、管理費、光熱費折半でも自分の年金でぜんぜん平気。
 趣味もいろいろあるので、困りはしない。
 子どもも孫も、こんな状況では夫を責めるだろう。もう孫にも会えないよ。

 夫は言う。
 こんなに頑張ってきたのに……

 それで書いてきた。私に長い手紙を。
 そもそも、自分の祖父が短気で、酒を飲むと暴れていた……から始まり、もう、日本酒は飲みません。悪酔いするから、と詫びの手紙。

 そんなこんなで仲直り。夫婦は不思議だ。
 早朝のスーパーの品出しにバイトに行き、女性が多いから楽しそうだ。
 夫婦で買い物。ゴルフ。料理もする。夫はレシピ通りに作るので、(私は下茹でなど省くので)おでんもおいしかった。
 夫は、週に1度は休肝日。週に1度は私に付き合い、ウォーキングとトレーニング。
 来月、区のスイミングプールがオープンするので通うつもり。 

 自分史でも書いたら? と勧めたけど、そういうのは、興味がないみたい。楽しいのにね。


 
 
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