第22話 リナの憂いと王子たちのお見舞い

文字数 1,307文字

 私は自分の部屋のベッドで大事を取って寝ていた。
 寝やすいからと、ふんわりとした上下に分かれたパジャマを愛用している。
 本当は、寝ている必要は無いのだけれどね。
 
 もうすぐしたら事件の後始末も終わって、セドリックもお城から戻ってくる。
 そうしたら少しは、私が帰った後の事を訊けるだろうか?

 マリユス・ニコラから刺されたお腹は、傷が全くついていない。
 キースから貰った血のり袋が裂けて、派手に血のりが飛び出しただけだ。
 でも、周りは私が大けがを負ってしまったと思っているだろう。
 セドリックに、私が無事な事を伝えられて本当に良かったと思う。
 また余計な心労を、かけるところだった。

 さすがだわ。マリユス・ニコラは、王室の暗部の人間だけあって、殺気も何も感じさせず、笑って私を刺していた。
 フィルが私の側にいなかったら、誰も気付かず取り逃がしていたかもしれない。

 マリユス・ニコラは、アンセルム王太子殿下を主と定め忠誠を誓っている。
 彼が命令したことなら、何のためらいも無く実行してしまうのだろう。
 今回のように、自分を含めた、使節団を全滅させるための行為でも。
 だけど、アンセルム王太子殿下の方は何とも思っていない。
 彼が死んでしまっても、もう記憶の隅にすら残っていないだろう。

 そう考えると哀れにも思うけど、私にはどうする事も出来ないわ。
 だって、彼を放置したらまた同じことを繰り返す。
「バカね。私って」
 思わず口に出てしまった。
 こんな言い訳をしても、人を殺してしまう事に変わりは無いのに。


「リナちゃん。ちゃんと寝てるか」
 セドリックが帰ってきたわ。
 だけど、なんだか機嫌が良いというよりは……。
「どなたか、いらっしゃっているのですか?」
 私は、2人の時の話し方はしないで、ベッドに上に座り直した。

「元気そうじゃない。良かった」
「女性の寝室にお見舞いに行くものでは、無いと言ったのだけどね」
 大きな花束を持った、アラン殿下とジークフリート殿下が室内に入ってきた。
 侍女が花束を受け取り、飾るための準備をするために退出している。
 他の侍女たちも、王子殿下たちの席を作り、紅茶の用意をしてから退出していった。
「それじゃ、俺も自分の部屋へ戻るから」
 え? セドリックまで、行っちゃうの?
 引き留める間もなく、セドリックもいなくなってしまった。
 目の前の王子殿下たちはにこやかにしているけど。

「あの、ご心配かけてすみませんでした」
 私は2人にベッドの上でペコンとお辞儀をして謝った。
「本当に大丈夫なの? 女の子なのに、傷でも残ったら」
 アラン殿下が、心配そうに言ってくる。
「ああ。ケガしてないです。お腹見ます?」
 私は、パジャマの上をたくし上げてお腹を見せた。

「うわ~っ! 何やってんの。リナ」
 アラン殿下は、赤くなって腕で顔を隠しながらそっぽを向いた。
 ジークフリート殿下の方はまじまじと見てるけど……。
「本当に、綺麗なもんだ。傷一つ無い」
「でしょ?」
 私たちは普通に確認していた。
「なんなんだ、お前ら。何で平気なんだよ」
「意識する方が、やらしくない?」
 初心(うぶ)なアラン殿下に、ジークフリート殿下はからかうように言った。
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