第112話 ホールデン侯爵邸 ホールデン侯爵VSリナ・ポートフェン

文字数 2,069文字

「人聞きが悪いです。フィル様。ちょと目と喉が痛くなるくらいですよ」
「ちょっとじゃ無いだろう。去年の事件の時の兵士、一ヶ月くらい目が死んでたぞ」
「だって、空き部屋に連れ込もうとしてたんですよ。だから、粉、顔面に押しつけて……」
「あの野郎……」
 さすがにフィルも怒った。

「誰に、何されそうになったって?」
 セドリックが上がって来てた。クリフォードとサイラスもやってきてる。
 サイラスにヒョイと袋をとられた。
「これは没収。ロクなこと考えつかんな、リナ嬢は」
 サイラスからコンと小突かれた。

「それで? フィル・レドモンド隊長。まだ第8部隊は戦うのか?」
「え? フィル様。隊長になったんですか? おめでとうございます」
「持ち上がりでな。第8部隊は撤収します。自分の判断で出たので懲罰は自分だけにして下さい」
「え? 処罰は無いですよ。私の部下ですから。とにかく第7部隊と一緒に行動してて下さい」
「しかし」

「だって、隊のみんな、私を攻撃しなかったでしょう? 私のテロ行為も止めたし、とりあえずそれでチャラって事で」
 戦力減らす訳にはいかないし、私の部下は処罰の対象外だしね。
 そんな遣り取りをしてたから、油断してたんだと思う。
 だって、まだ私たち、ホールデン侯爵と話し合いの交渉が出来ると思ってたから。

 だから、各派閥の嫡男……次期当主を連れて来たのだもの。
 みんな、階下の方を向いてたから気付かなかった。
 ホールデン侯爵が後ろから近付いてきてたことに。
 いきなりホールデン侯に後ろから拘束されてしまった。
 のど元には剣が……そのまま降ろされたら、首が斬れると思う。

「親父。リナ嬢を離せ。騎士団全て抑えられてるんだからもう無駄だろう?」
 みんなが硬直する中、サイラスがやっとそう言った。
「こいつの、のど元にあるのがリーン・ポートだろう? 王族よりも権力を持つ。こいつさえいなければ、アラン王子が」
 なぜ、ホールデン侯がリーン・ポートの事を知ってる?
 しかも情報が中途半端だ。

「私を殺せば、王族殺しと同等。アラン王子まで類が及びますよ」
「王妃の一族が何とかするさ。国王は次世代の継承には関われないからな」
 フッと(わら)ってしまった。愚かすぎる。
 多分、アボット侯に忠告に言った際、また中途半端にリーン・ポートの事を聞かされたのだろう。

 あのアボット侯に今回の予測が出来無いはずは無い。
 これは、自分が処刑されてしまった場合の保険。少しでも王太子殿下の助けになるようにと。
 考えつくことが、似てるよね。アボット侯と私。
 自分を捨て駒扱いするところまで……。

「そう思うのでしたら、私を殺してしまえば良い」
 まわりみんながギョッとする。そして、警戒態勢に入った。
「ですが、私の立場には代わりがいるのですよ」
「なにを世迷い言を」
「聞きませんでしたか? リーン・ポートは国王が生涯に一度だけ生み出せる魔法物。貴方、私の父と同僚だったのでしょう? しかも、侯爵家と同等の地位で」
「まさか」
「そして、私の父のリーン・ポートは先代国王より賜りましたが、現国王に書き換えられてません。私と同じ立場で、次世代の継承に関われるのですよ」

 そう、これが私の最後の切り札(交渉カード)。私の代わりはいる。

 ホールデン侯爵は剣を取り落し、その場に崩れ落ちた。
「国王からの命令書です。1つは、サイラス様がこちら側で動いたことによって成立してます。あとは貴方が、会談の場についてくれることで成立します。後は、王太子殿下の命を狙う過激派で無くなりさえすれば、この家も残りますし、派閥もそのままです」

「派閥など無くしてしまった方が、良いのではないのか」
 ホールデン侯は、力なく言う。
「権力を1つにしてしまうと、独裁国家が生まれる可能性が高くなるのですよ。それに、情報が入っているとは思いますが、他国対策を早急にして貰わなければなりません。私たちは、貴方を失うわけにはいかないのです」
 そう言った私を、力の無い目でホールデン侯爵は見上げた。

「わかった。このまま同行すれば良いんだな」
「おねがいします」
 ホールデン侯爵は拘束されるまでも無く、私たちに従って、王宮に入ってくれた。
 これで、私が国王から依頼(めいれい)された任務は全て終了のはずである。
 王子たち両名の安全はこれで保証されるはずだから。



 王宮に帰り着いて、事の顛末(てんまつ)を国王陛下に報告をし、私の任務は終了した。後の事は、父が何とかしてくれる。
 私はもう歩く気力も無くて、セドリックにもたれ掛かった。

「リナちゃん?」
「セドリック様。ごめんなさい、もう歩けないです」
 子どもがするように、抱っこをせがむポーズをする。
 うん。まわりは仕事は終わったとばかりに、見事にスルーしていった。
 やれやれって感じで、セドリックは私を抱っこしてくれた。
「さて、お姫様。どちらへ?」
「え?」

「リナの部屋と俺の部屋。どっちに送れば良いんだ?」
 小声で訊いてきた。
「どっちでも……」
 なんでそんな無粋なこと聞くかな。
「了解」
 どっちにたどり着いたかは、まぁ私たちだけが知ってれば良いこと。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み