第72話 リナちゃんは下町に行きたい 団長の警告

文字数 1,452文字

「なるほど…一矢報いる気満々な訳だな。クランベリー公を落としたのは伊達じゃ無いって訳か」
 雰囲気が団長に戻った。ーって言うか、今何て言った?

「こっち側の人間を今更どうのこうのしないさ。今のは、ものを知らない子どもへの単なる警告。派閥関係無く、親兄弟以外の男を信用するな。了解?」
「了解です。でももう、子どものふりは、限界ですかね」
「結婚適齢期には入ってるしな。あんたの親父さんが握りつぶした縁談も結構あるんじゃないかな」
 その辺は、世界を超えても変わんない訳ね、ゲームの中じゃ平気だったのに。

「それに、ホールデン侯爵家に取り込まれるんだったら、相手は俺だよ」
「レイモンド様じゃなくて?」
「レイモンドは……もう婚約者がいるからなぁ。だが、あんたがあっちの方が良いって言うなら」
「どっちも嫌です」
「そりゃそうか。残念だけど仕方ない」
 この辺、本当にどうでも良いんだな。この人たちって。セドリックと反応が似てるや。

「話に、ついて行けてないみたいだな」
「はぁ、結婚は、好きな人としたいです」
 団長は吹き出して、笑い出した。変なこと言ったかな?
 そんな中、コンコンってノックの音がして。

「セドリック・クランベリーです。入ります」
 セドリックが許可取るまでも無く入ってきたけど……。
 目の前の惨状……団長、まだヒーヒー言って大笑いしてる。そろそろ、呼吸困難が心配なレベル? ……を見て、私に訊いてきた。

「何? これ」
「さぁ」
 何が笑いのツボなのか分からん。
「あ……セド……リッ、ちょっと待て」
 笑いを必死で止めて、部屋に備え付けられてる水差しから水飲んでる。
「あ~、死ぬかと思った」
「何かありましたか?」
「いや……リナ嬢があまり見た目通りの可愛いこと言うんで、言動とのギャップがね」
「可愛いこと?」
 セドリックが、怪訝そうな顔になる。

「それは……まぁ。後から彼女に訊きたまえ。今、言ったら笑いを堪えられなくなる」
「ギャグを言った覚えはないんですけどね」
()()……にしてくれ。リナ嬢」
「はい。団長」

「それで……だ。セドリック。お前、リナ嬢に四六時中張り付いとけ」
「無理ですね」
「上官命令だぞ」
「リナ嬢の護衛依頼は、すでに宰相から受けてます。よって、団長の命令は却下できます」
「なるほど……宰相の命令の方が優先されるな。だけど、護衛だから仕事一緒じゃ無いか」
「四六時中、私が張り付いてましたら、リナ嬢がしてることの意味が無くなります。自由の確保も仕事に入ってますから」

「その所為で、危ない目に遭っても?」
「安全な場所を放棄してきてるのですから、自業自得でしょう」
 セドリックが、何かあったのか? って目で言ってきてる。
 何にも無いよ。セドリック呼んでた時点で、何もする気無かったんじゃん。

「勘違いしてるかも知れないので言いますが。近衛団長は純粋にリナ嬢を認めてます。あの近衛団長の殺気の混ざった威圧の中、優雅に笑って話し続けられる人間を自分を含めて、私は知りません。『剣が無くてもどうこうできる』と言われても『自分の見る目が無かった』と言い切ってますからね」

 あ~、そんな風に見えてたのか。過去の自分すごい。
「それは……すごいな。本気で参謀に育て上げる気か~。参ったね、こりゃ」
 騎士団全体敵にまわすとこだった……と、ボソッと言った団長のつぶやきは、しっかりセドリックに聞こえてるようだった。
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