第17話 アル兄様のお部屋

文字数 2,003文字

 それから、セドリックとは付かず離れずの交流をしていた。
 本音を明かさないのはお互い様だけど、味方かどうか分からない相手に話も出来ない。

 まずいな。
 そろそろ何とかしないと、私が第二王子派に組するかのように見えてしまう。それが狙いなのかもしれないけど……。
 さて、どうするか。


 学園内の図書室で、宿題のレポートの題材になる本を探していると、兄から声をかけられた。
「勉強の息抜きに僕の部屋に来るかい。実家から良い茶葉が送ってきたんだ。『シャングリア』のクッキーもあるよ」
 にこにこ笑って、来るよねって言ってる。
 なんで女の子の間で、最近人気上昇中のお店を知ってるんだ、兄よ。
 ていうか、そんなのに釣られるように見えるのか……釣られるけど。

 原則、男子寮は女人禁制だ。逆もそうだが。
 ただ、原則……と言うからには、当然例外もある。
 兄妹や婚約者だ。それでも、夕食の時間までという制約はあるけど。

「まぁ。アル兄様のところに? それは是非伺いたいわ」
 不自然にならないように会話し、兄の後に付いていく。
 最近、セドリックがつきまとってるし、話聞きたいんだろうな。

 兄が部屋の扉を開けてくれる。
 パッと見、部屋の中は女子寮と変わらない。
 中にはうちの護衛兼使用人が数人と、テーブルの横に置いてある椅子にセドリックが座っている。

 兄が使用人たちに何か耳打ちしたら、セドリックを残して出て行ってしまった。
 私を見たセドリックは、ふにゃっとした顔で
「リナちゃん。助けてよぉ~。アルフレッドが怖いよう」
 いや、全くそんなこと思ってないでしょ。
「この部屋の周りはうちの使用人たちがいるから、ここで何を話そうと、何をしようと一切漏れない。セドリック。うちの妹にチョッカイをかけるのは、いい加減やめてもらえないか」
 訂正……兄が、怖いです。殺気、ダダ漏れです。

「俺じゃ無いよ。リナちゃんからチョッカイかけてきたんだよぉ~」
 その状況を利用してたくせによく言う。
「本当か?」
 兄が私に確認してきた。私に向ける顔は優しいんだけどね。
「半分は本当ですね。あとは、いいように利用されてたので、どうしようかと思ってたところですが」
 私の言葉に兄が少し驚く。

 私は、セドリックの方を向いて言う。
「この間の私の言葉。セドリック様にはどう聞き取れたのでしょう」
 伝わってなければ、この話はこれでお終い。
 私が、ゲーム通りの賢さとセドリックを買いかぶってただけだ。
「あ~、あれ」
 チラッと兄を見て、視線を私に戻して言った。
「王子たちをどっちも助けたいから、協力してくれ。だけど、その判断は俺に任す……だろ?」
 おお。正しく伝わってた。
「さすがですわ」
 私は思わず笑みを深めた。

「ちょっと待て、話が見えないんだが」
 兄が焦ったように言う。
「まだ、セドリック様の返事を聞けてないので、詳しい話は言えないんです」
「アランは、ジークフリートの補佐をしたいと言っている」
 唐突にセドリックが言い出す。
「でも、派閥の状況で、それを言うのが許されない立場なんだ。俺は、なるべくならアランの意思にそいたい。だけど、ジークフリートとアランのどちらかがって事になったら、俺は躊躇(ちゅうちょ)無くジークフリートを追い詰める。これが俺の本音だ」
 取り繕わない、真剣な厳しい顔。

「それで? 俺の本音を引き出したんだ。そっちも何かあるんだろ?」
 初めて私を対等に見てくれた。私も真剣な顔で向き合う。
「私の行動は、現国王の知るところです」
 セドリックも兄も驚いた顔で私を見る。

「現国王は、『学園在籍中の王太子と第二王子の安全確保』をして欲しいと依頼なされました」
「ばかな……」
 兄の口から思わず漏れた言葉は、聞き咎められたら不敬罪になりかねない。
「お前……何、気軽に受けてきてるんだよ。それ、失敗したら……」
「アラン王子殿下が王位に就くだけです。セドリック様には何もご迷惑はかかりません」
「お前のことだよっ」
 思わずと言った感じで怒鳴ったセドリックに笑みだけで返す。

 兄も、頭痛いとばかりに、手をこめかみに当ててた。
 そして、覚悟を決めたように言った。
「僕も巻き込んでくれ。僕にも伝手があるし、この部屋の提供も出来る」
 そういうと思ったから内緒にしてたんだけどな、兄様。

 セドリックが降参って感じで、ため息交じりに
「わかった、根回しする。しかし何考えてるんだ。こんな年端もいかない……」
 ブツブツ言い出したよ、セドリック。
 でも、リアルセドリックってこんな感じなんだ。
 年端もいかないって、2~3才しか変わらないはずだけど……。

 まぁ、前世の記憶がある今は、私の方が10年以上も年上ですわ。
 精神的に……。
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