第59話 学園に帰る馬車の中での交渉

文字数 1,527文字

 クリフォードに見送られて、私たちは学園護用達の馬車に乗った。
 馬車は、だいたい20分程度で学園に着く。
 この馬車だけは、学園生でないライラも乗れない。
 誰の監視も付かない、内緒の話が出来る唯一の時間になる。

「セドリック様……お願いがあるのですけど、ダメでしょうか?」
 馬車の中で向かい合わせに座っているので、前のめりになって訊いてみた。自分の膝に頬杖ついた感じになってる。
「お願いにもよるけど?」
「セドリック様のお父様とお話しする場を設けて欲しいんです」
「ジークの手伝いしないって言ってなかったけ?」
「ああ、違うんです。それは、本人がやらないと、もっと相手を怒らせるだけだから。そうじゃなくて私の用事で会いたいんです」
「俺も、同伴なら良いよ」
 セドリックも同伴かぁ~、じゃぁ、保険にあっちの許可も取っておこうかな。

「それと、もう一つお願いがあるのですが」
「あ~うん、良いよ。謹慎解いてくれたお礼ってことで」
「さっきの話に出ていたセドリック様との縁談。交渉に使っていいですか?」
「それ、本当に婚姻結ばないといけなくなるからやめようか」
 意味分かってんのかな? この子って感じで言ってきた。
「さっき縁談話出てたときは無反応でしたよね?」
「俺は困らないからな。もともと相手選ぶ自由もないし。まぁ、俺と結婚してもいいんなら、使ってもかまわないぜ」
 本当にどうでも良い感じに言うなぁ。上位貴族ってこんなもんか?
 でもまぁ、許可とれたんでいいか。

「たださぁ、この縁談。交渉に持って行っても、たいしたものとって来れないぜ」
「でしょうね。でも、そういう話になったときに、セドリック様の許可とってないと私身動きとれなくなるんで」
「なるほどな。ーで、目的は?」
 セドリックは、ちょっと身を乗り出してきた。
「え?」
「え? っじゃないだろう。目的知ってないと、利用されようもない」
「利用されてくれるんですか?」
「こっちは散々利用してるからな。別にいいぜ」
 なんか、裏がありそうで怖いなぁ。
「アル兄様とジークフリート様に、絶対バレないようにしてくれるのなら、教えます」
「難易度高くない? まぁ、あいつらにバレたら即、保護されそうだもんな。俺の親父に会いに行く時点で。わかった、バレないようにだな。ーそれで?」

「最終目標は、ホールデン侯にケンカ売って勝ちたいです」
 あ……セドリック、絶句してる。
「とりあえず、お前どっちかに保護されとけば?」
「え~、話が違う」
「本当はバカだろう、お前。どう考えてもケンカ売って勝てる相手じゃ無いだろう? 相手は国内最大勢力のトップだぞ」
「だって、勝たないとアラン様の希望叶わないし。ジークフリート様も国王になれないし。私、向こうに取り込まれてしまうし」
 私が殺されるかもしれないとは、言わない。言ったが最後、自由が無くなる。

「それで、俺との縁談か」
 セドリックが溜息をつく。
「親父との話し合い、俺たちの卒業式後になるけど良いか? 卒業式後だったら、アルフレッドの方は、王立大学の入学準備で忙しい時期だし。ジークもエイリーンも新学期まで王宮に籠もるから目を反らしやすくなる」
「いいんですか?」

「ただし親父との交渉。同伴はするけど。俺は一切手を貸さない、それでいいか?」
「もちろんです」
 最初から当てにするつもりも無いけど……。
「そのかわり、交渉成立したら全面協力するよ」
「はぁ…よろしくお願いします?」
「だから何でそこ疑問系?」
 セドリックが脱力した。
 いや、勝手に変な覚悟しないでくれるかな?
 最終目標まで付き合わせる気無いからね。
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