第14話 王宮の夜会 キースとのダンス リナの企み

文字数 1,140文字

 私とのダンスの後、フランシス殿下が他の女性にダンスを申し込むのが見えた。
 我が国からの、花嫁候補を順にダンスに誘うつもりらしい。
 特定の女性と踊って、後々問題にならない様にするためだろう。
 普段、戦場を駆け回って体力がある彼らしい考えだ。
 ふむふむ。と私が感心して見ていると後ろから声がかかった。

「クランベリー伯爵夫人。私と踊って頂けますでしょうか?」
 キースは、上位貴族としての綺麗な礼を執っている。
「喜んでお受けいたしますわ。シャーウッド公爵閣下」
 私も上位貴族として恥ずかしく無い礼を……って、何の勝負をしているのだろう。

 曲の始まりに合わせて踊りだす。
 向こうのゲームでは、夜会のシーンなどなかった。
 そのはずなのに、キースは他の上位貴族と同じ……いや、それ以上にダンスが上手だ。
 やっぱり、向こうもゲームでは無く、現実の世界なんだなぁって思う。
「心は決まった?」
 不意にキースから訊かれた。
 こういう時のキースの表情も読めないな。
 さすが厳しい世界を渡っているだけはあるわね。

「今だけ。フランシス殿下に忠誠心を捧げるって言ったわ。生涯をかけて誓う訳にはいかないから」
「そう」
 ダンスのターンを利用して、グイっと引っ張られた。
 キースの腕の中におさまってしまう。
「ちょっと」
 わたしは抗議の声を上げたけど、キースに抱きしめられる形でダンスの足が止まってしまった。
「ごめん。今だけ」
「悠人?」
 珍しい、弱音を吐くなんて。
 キースの体が震えている。
 戦争もこれから起こすはずの軍事クーデターも、平和な日本に産まれた悠人には耐えがたいものだと思う。
 私だって昨年のデューク・リネハンの処刑は今でもトラウマとして残っている。

 私は、キースの背にスルッと手をまわして言った。
「外交の場に、私を呼んでくれる? そうして、私をグルタニカ王国に連れて行くと交渉して。私の方からの条件を断ってちょうだい」
 キースは、信じられないという顔をして私を見た。
 仕方のない人。甘えるくせに、私を頼ろうと思っていない。
「それで、マリユス・ニコラは動くでしょう?」
 フランシス殿下の思惑とは別に、私を一番連れて帰りたいのは彼だもの。
 そして、連れて帰れない時は……と、考えるのも。

「リナ。お前何を」
「あの計画は、私も共犯だし。1人くらい背負うわよ」
 私はにこやかに笑って見せた。
 キースは微妙な顔になったけど。
 
 また再び、ダンスのステップを踏む。
「大丈夫よ。リナは子どもだけど。中身の私はもう30歳を超えてるんだから」
 そう、大丈夫。
 この世界にいる限り、そういう覚悟は必要な事だから。


 夜会の翌日。
 セドリックと私は、国王陛下の執務室の前にいた。
 ある話し合いと、国王陛下の許可を取るために……。
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