第87話 アボット侯爵邸はレモンケーキだった

文字数 1,921文字

 数日後、クリフォードの案内で、私とセドリックはアボット侯爵邸はの応接室にたどり着いてた。

 いや……もう、何も言うまい。
 何かのお約束なのか。私の召喚アイテムと思われているのか……ありましたよ。
『シャングリア』のこれは……レモンケーキかな?
 あそこのは、ケーキ自体が幻アイテムだものなぁ。権力ってすごい。

「お嬢さんをお招きするのに、お菓子の一つも無いと思われても困るので。お口に合うか分かりませんが、どうぞお召し上がり下さい。私は食べている間に、国王陛下の書簡に目を通しましょう」
 ベネディクト・アボット候が穏やかに私たちにお菓子を勧めてきた。
 アボット侯の口調から好意的なものは、一切感じないけどね。
 セドリックは、1口だけ食べて、自分の分のケーキを私にくれた。
 一口も食べないのは、毒入りを疑っていると取られるので、苦手でも食べるんだけど……。セドリック、甘い物苦手だっけ?


 アボット侯爵、おじいちゃんと言うには、まだかなり若いな。
 確かに白髪交じりではあるけど、元々銀髪だし。前の世界だったらまだ現役で働いてそう。
 ちなみに、書簡には要約すれば、私と話し合ってね程度の事しか書いてない。

「さてと、どういった。ご用件だったかな?」
 私がケーキを食べ終わった頃、アボット侯は話を振ってきた。
 まずは、事実確認かな?
 クリフォードはともかく、セドリックがいるから、どこまで許されるか分からないけど。
「アボット侯爵様には、貴重なお時間をさいて頂きましたことを、心から感謝致します。まずは、お訊きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「かまいませんよ」
「アボット侯爵様を前宰相様としてお訊きしたいのですが。現国王の就任時の事件の真相を知っていながら、事実とは違う噂を流したと聞いております。間違いないでしょうか」
「そうですね。結果的には間違っていません」
「結果的に……ですか」
「ええ、そうですよ。あの噂は真実を隠すためのものでしたから。現宰相も貴方のお父上も知らないだろう真実があるのですよ」

「結界維持……ですか?」
 セドリックがいるため、リーン・ポートの事はしゃべれない。だから、一番無難な事を言ってみた。
「おや、誰から聞きました?」
「王宮の奥の書庫で調べてるうちに……。知りたいことが書いてる本が無かったので、憶測に過ぎないのですが」
「憶測でかまいませんよ。お嬢さんの考えを話してみて下さい」
「でも……」
 チラッと、セドリックを見る。

「私が肯定するまでは、単なる憶測……なんなら、子どもの戯言扱いにしても良いですよ」
「では、史実の方から。歴史書や国の資料を調べていけば、ある戦争を最後に一切の外交や戦争の記録が残されてないことがわかります。そのきっかけの戦争は、国の内乱の隙を突いて他国から攻められたもので、我が国の損害は、尋常じゃ無かったと記録されてました。当時の魔導師たちが、魔法で戦った記録もあります。ここまでは、歴史書に載っていた事実です」
 ここまでは、良い。ここまでは、誰でも閲覧できる歴史書にも略歴ながら載っている。公爵、公爵家の書庫になら、ちゃんとした歴史書もあるだろう。

「ここからは、完全に(こども)憶測(ざれごと)ですが。生き残った魔導師は、魔法物を後世に残そうとします。ただ、当時の王室に、不満か恨みでもあったのでしょうね。もう二度とあのような戦争に巻き込まれないように、王位継承をしっかり立て直したにもかかわらず、混乱を招くよう呪いのようなものがかかってます。これも、歴史を紐解けば分かるのですが、ほとんどの王太子は国王に就任できてません。現国王の時も、上の王子二人が亡くなっています」
 私は、ここで一呼吸置いた。次にいう事は、完全に私の憶測だから。
「私は、魔法の事はよく分からないのですが。国を覆うような強い結界を数百年張り続けるのは、例え、核になる魔法物があっても不可能では無いでしょうか」
「そうかも知れないね。それで?」
「ですから、結界の維持に王族の血が必要だったのでは無いかと考えました。
 (こども)憶測(ざれごと)は以上です」
「ふむ……」
 アボット候は、少し考え込んで私に聞いてきた。
「ところで、セドリック・クランベリー伯爵はお嬢さんの婚約者で間違いなかったかね」
「え? あ……はい。間違いないです」
 何? 何の確認?
「これから先の話は、彼をお嬢さんの運命に巻き込むことになるが、かまわんかね」
「かまいません。話を続けて下さい」
 間髪入れず、セドリックが返事をした。私に何か言わせぬように。
 え……っと、私はかまうんですが。
 アボット候は、セドリックの言葉にうなずき。
「今、お嬢さんが話したことに訂正するところは無いですよ。全て事実です」
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