第110話 セドリックの執務室 リナからの指示

文字数 1,613文字

 セドリックの執務室に入ったら、セドリックとクランベリー公、クリフォードとライラ、そして意外なことに第7部隊の隊長ルーカス・オルグレンがいた。
 みんなこっち見て、ビックリしてる。
 一瞬、何で? と思ったけど、私、サイラスに抱っこされたままだった。

「おい」
 セドリックがサイラスを睨み付けた。
「大丈夫か」
 サイラスが私を気遣う言葉をかける。

 セドリックに睨まれても平気な顔をして、私をゆっくり降ろす。私の服の皺なんかを直してくれたりして。いや、私抱えてものすごい勢いで歩くのでこっちは頭にしがみついてたんだけどね。
 これじゃ、とらえようによっては、二人の間に何かあったようにみえる。
 わざとだ。絶対わざと波風立てようとしている。

「大丈夫ですわ。サイラスお兄様」
 私は、落ち着いてにっこり笑って見せた。
「そうきたか」
「当たり前です。だって、兄が妹を抱っこしてもなんの問題ないだろうって言われたから抱っこされたんですもの」
「そうだったな」
 と言って、サイラスは正面を向き。

「国王の(めい)によりこちらに参上しました。ご指示願います」
 ピッと態度を改めた。
 サイラスはクランベリー公を見て言ったんだけど。
「私はリナの護衛だよ。彼女がこの場の責任者だ」
 そうだったわね。

「指示の前に、オルグレン隊長がなぜここにいるのですか? 騎士団は全員待機のはず」
「第8部隊が、ホールデン侯爵の命令で邸宅の方に向かいました。もしホールデン侯爵家に向かうのであれば我が隊も一緒に同行させて下さい」
「団長?」
「俺の命令じゃないって言っても意味が無いな。全隊員か?」
「はい」
「どうする? リナ嬢。俺だったら、連れて行くけど」
 どうしよう。戦いになったら、どっちにも犠牲が出る。

「分かりました。ただし連れて行くのは隊長を含め10名です。戦闘準備をして待機してて下さい。あと、馬の準備お願い出来ますか? 4頭プラスして」
「リナ嬢のもですか?」
「田舎育ちなもんで、乗って駆けるだけなら出来るんです」
「了解しました」

「それから、隊員の皆さんに最優先事項を伝えて下さい」
「はい」
「いのちだいじに」
 超有名なゲームの自動戦闘システムの中にあるアレです。
『死なないで』とも、『殺さないで』とも言えない私のギリギリ。
 その言葉の弊害を、私は知っているから。

「いのちだいじに……分かりました」
 いまいち、分かってない風でそれでも、命令として受け取って退出していった。

「さて、ライラ。貴方は王宮に残っている第二過激派を抑えられる?」
「出来ますけど」
「ああ、例の証拠は王太子殿下が拾ってた手紙で何とかなりそうなの」
「そうですか、分かりました。こちらはお任せ下さい」
「それと、クリフォード様。私と一緒にホールデン侯爵家に行ってもらえますか? 王太子派の貴方が一番危ないので、拒否して下さってもかまいませんが」
「危ないのはリナ様も同じなのでは?」
「私は良いんですよ。国王陛下から依頼(めいれい)といっても、拒否権はあったのに関わってるのですから」

「では、私も同じで……。リナ様が仲間と言ってくれたのは嬉しかったんですよ」
「ありがとう」
「セドリック様は行ってくれるとして」
「なんでサラッと流すんだよ」
「え? 留守番したいですか?」
「行くよ。行くけど……」
「じゃぁいいじゃないですか。サイラス様ももちろん行きますよね」
「そのためにここに来たんだろうが」

「ーと言うことで、クランベリー公爵様。まず、宰相様とアボット侯爵様を牢から出して下さい。うちの父を連れていたらすぐ出せると思いますので。後は、ホールデン侯爵と決着付いたら、国王と宰相、ポートフェン子爵家当主、各派閥のトップで話し合えるように段取りして貰えますか?」
「承知した。リナ、気をつけて行っておいで」
 クランベリー公が父親の顔で言うから
「はい。お父様、行ってきます」
 って、笑顔で自然と返してしまった。

 この場にいたみんな、固まってしまったけど。
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